私は洗濯物をベランダに干していた。西日が手元を金に変える。

シャンデリアの明かりを受けて、端正な鼻筋がロココ時代の切り絵のシルエットみたいにソフトに浮かび上がり

（かまどに火に照らされて）煉瓦（れんが）の壁が暗（やみ）を通して燃えるごとく光った。

彼女の腰の曲線が、霧を透（とお）した朝日の光りを区切ったために、七色の虹となって浮き立ち

グレーのシャツと黒いカーディガンは光線の加減で白いシャツとグレーのカーディガンにも見えた。

（木の葉が）風に揺らぐと、反射で、滑らかな崖の赤土の表面が金屑風のように閃く。

（深夜、二つに仕切られた外の共同湯に入っていると）きまって客の湯の方に男女のぽそぽそ話しをする声がきこえる。私はその声のもとを知っていた。それは浴場についている水口で、絶えず清水がほとばしり出ているのである。また男女という想像の由（よ）って来るところもわかっていた。それは溪の上にだるま茶屋があって、そこの女が客と夜更けて湯へやって来ることがありうべきことだったのである。そういうことがわかっていながらやはり変に気になるのである。男女の話声が水口の水の音だとわかっていながら、不可抗的に実体をまとい出す。その実体がまた変に幽霊のような性質のものに思えて来る。いよいよそうなって来ると私はどうでも一度隣の湯を覗（のぞ）いて見てそれを確めないではいられなくなる。

車のライトに青白く照らし出される藪や林が不気味で、こんなことなら節約せずに高速を使うべきだったと後悔していた。

街灯が照り、影が細長く、車道に伸びている

蒸し暑さに電灯に灯まで汗をかいたように濡れて見える

サユリが客の間を腰から下だけを時計の振り子のように動かす美しい姿勢で歩いて行くと、彼らは店の内装の粋な感覚など全て忘れて彼女の方を見るのだった。時を刻むのは、彼女の靴の細い 踵かかと の音だけである。

男のような大きな女

その肥満した体にちょうど調和した重々しい調子（の声）

体は軟体動物のようにぐにゃぐにゃして

彼は背が高くて、白衣の上からでも胸の厚みを感じ取ることができた。水泳選手を連想させるような、すばらしくバランスのいいからだつきだ。彼のからだが水に濡れたらきっと美しいだろう、とわたしは思った。