三葉が笑うと──今になって、俺は気づく。世界までが、一緒になって喜んでるみたいだ。

木部は燃えやすい心に葉子を焼くようにかきいだいて、葉子はまた才走った頭に木部の面影を軽く宿して

恋のような高揚した気持ち

この恋はとても特殊に白く光っていて　（あの日のＵＦＯみたいに）、違う運命にジャンプするために二人で組まなくてはいけない、という感じがした。 　後のことはいいから、とにかく今、手をつないで飛ばないと、このめまぐるしく変化する人生とはぐれてしまう。

（恋愛と結婚）若い人間の心には、肉体との境界のあたりに、 頗る可燃性の高い部分がある。ある時、何かの拍子にその一端に火がつくと、それが 燎原 の 如く広がって、手が着けられなくなってしまう。その火に、相手の心のやはり燃えやすい部分が焼かれてしまうと、二人はただ、苦しさから逃れるためだけでも互いを求め合わなければならない。 　恋がもし、そうしたものであるならば、土台、長続きするはずはなかった。その火は、どこかでもっと、穏やかに続く熱へと転じなければならない。 　愛とはだから、若い人間にとっては、一種の弛緩した恋でしかない。その先に見据えられた結婚には、どれほどの祝福が満ちていようと、一握りの諦念が混ざり込まずにはいられないものである。

母の顔は、友達に自慢の出来る具合のわかりやすい美人で

サユリが客の間を腰から下だけを時計の振り子のように動かす美しい姿勢で歩いて行くと、彼らは店の内装の粋な感覚など全て忘れて彼女の方を見るのだった。時を刻むのは、彼女の靴の細い 踵かかと の音だけである。

特徴のない、安っぽい美形

少し狡（ず）るそうな美しい娘

処女のように美しく小柄（こがら）な岡

男とは、肉欲を隠し服を着た狼のようなもの

女ざかりの艶かしさ

（入院中の爺さんをお見舞いに来て爺さんに怒鳴られて）老婦人は顔を伏せてちぢこまっているが、別にしょんぼりしている様子でもない。四十年も五十年もこの調子でどなりつけられてきて、何も感じなくなっているのだろう。《…略…》 （婆さんが言う）「すみませんねえ。うるさい、きたない年寄りで……」　テーブルの下の棚から、やっと「突き匙」が出てきたときには、吉田老は怒り過ぎたのか、いささかぐったりとしていた。姿勢をしゃんと正さず、半分起きた状態で果物を口に運ぶために、喉仏から鎖骨のあたりに果汁がぼたぼたこぼれ落ちる。婆さんはそれを見て、またしきりに〝きたない〟〝きたない〟と繰り返すのだった。　最初のうち、おれはこの老夫婦の会話をほほえましく聞いていたのだ。昔ながらの封建的だが駄々っ子のような亭主と忍従型の老妻とのやりとりとして。　誤算だった。　婆さんの顔は、押さえきれない喜びに輝いていた。　婆さんは、いまやじっくりと復讐を楽しんでいるのだった。愚鈍を装って、傲慢な夫の神経に、一本一本細い針を突き立てている。ののしられ、婢（はしため）あつかいされ続けたこの半世紀の間、婆さんはじっとこの日を待ち続けて耐えてきたのだろう。いまや、吉田老に残された武器は、どなり慣れた口だけだ。それも所詮は空砲だ。婆さんはいま、案山子の正体を知ったカラスになって、じわじわと一本足の吉田老に近づいていくのだった。

無邪気で気立てがいい女

誰もが彼女に対してほのかな恋心を抱く

（二人が一つになるという）結婚という接木

もしかしたら俺にとっては、直紀さんこそが山なのかもしれなかった。 　こわくて、うまく踏み入ることもできなくて、でもいつだってうつくしい。

男がちゅっと時子の白い足袋の先を吸った。「ああ」　時子の血液ばかりかすべての液体は、その足袋の上の続いて交差するところに流れるかのようだった。

恋心の火は火力を調節できないからこそ尊い

僕は本を置いて懐中電灯を消し、直子を抱き寄せて口づけした。闇と雨音がやわらかく僕らをくるんでいた。