(恋愛と結婚)若い人間の心には、肉体との境界のあたりに、 頗る可燃性の高い部分がある。ある時、何かの拍子にその一端に火がつくと、それが 燎原 の 如く広がって、手が着けられなくなってしまう。その火に、相手の心のやはり燃えやすい部分が焼かれてしまうと、二人はただ、苦しさから逃れるためだけでも互いを求め合わなければならない。 恋がもし、そうしたものであるならば、土台、長続きするはずはなかった。その火は、どこかでもっと、穏やかに続く熱へと転じなければならない。 愛とはだから、若い人間にとっては、一種の弛緩した恋でしかない。その先に見据えられた結婚には、どれほどの祝福が満ちていようと、一握りの諦念が混ざり込まずにはいられないものである。
平野 啓一郎「マチネの終わりに (文春文庫)」に収録 ページ位置:21% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
......係には可塑性があったとも言えた。今更つきあおうと言い出しても、噴き出すような間柄ではなかった。 何が変わったのかと言えば、お互いの年齢と言うより他はなかった。 若い人間の心には、肉体との境界のあたりに、頗る可燃性の高い部分がある。ある時、何かの拍子にその一端に火がつくと、それが燎原の如く広がって、手が着けられなくなってしまう。その火に、相手の心のやはり燃えやすい部分が焼かれてしまうと、二人はただ、苦しさから逃れるためだけでも互いを求め合わなければならない。 恋がもし、そうしたものであるならば、土台、長続きするはずはなかった。その火は、どこかでもっと、穏やかに続く熱へと転じなければならない。 愛とはだから、若い人間にとっては、一種の弛緩した恋でしかない。その先に見据えられた結婚には、どれほどの祝福が満ちていようと、一握りの諦念が混ざり込まずにはいられないものである。 しかし、洋子がリチャードと再会したのは、年齢的に、もうそろそろ結婚すべきだと感じていた時だった。 リベラルな通信社の女性記者の一人として、彼女は、子供を持つ人......
単語の意味
諦念(ていねん)
燎原(りょうげん)
肉体(にくたい)
諦念・・・あきらめること、その気持ち。また、明らかに認めること。道理を悟る心。
燎原・・・火が猛烈な勢いで野原を焼くこと。火の燃え広がった野原。
肉体・・・肉から構成されている体。生きている人間の体。生身の体。
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恋に落ちるの表現・描写・類語(好きのカテゴリ)の一覧 ランダム5
自然に、柳の木が揺れるみたいに大胆に男の人を好きになれるあざみさんがうらやましかった。
よしもとばなな / まぼろしハワイ「まぼろしハワイ」に収録 amazon
重竜に対して抱いていた 朦朧 とした気持は、その瞬間、恋情というはっきりした形となって千代の中で固まっていった
宮本 輝 / 螢川「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
お店に入ってもどの服を買うかすぐに決められなくて、熟考しているうちにお目当てが売り切れてしまうタイプの私だけれど、中学二年生の教室ではたくさんのクラスメイトがいるなかで、イチを見つけたとたん、すらりと好きになり、心のなかで即決で彼を買った。
綿矢 りさ / 勝手にふるえてろ amazon
彼が触れてくれた時、ことん、って鍵がはずれるような感じがしたわ。
小川洋子 / 冷めない紅茶「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
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結婚するの表現・描写・類語(恋愛のカテゴリ)の一覧 ランダム5
犬でも飼うことを決めるみたいに、あっさりと再婚する
連城 三紀彦 / 恋文 amazon
ねえ。うーん、だって結婚って、相手のいいところも悪いところも飲みこんでいくんでしょ? もし悪いところのほうが多かったら、お互いタマッたもんじゃありませんよ。 《…略…》そうだ、おねえさん、蛇ボールの話、知ってます? 《…略…》二匹の蛇がね、相手のしっぽをお互い、共食いしていくんです。どんどんどんどん、同じだけ食べていって、最後、頭と頭だけのボールみたいになって、そのあと、どっちも食べられてきれいにいなくなるんです。分かります? なんか結婚って、私の中でああいうイメージなのかもしれない。今の自分も、相手も、気付いた時にはいなくなってるっていうか。うーん、でも、それもやっぱ、違うのかなあ。違う感じもするなあ。
本谷 有希子 / 異類婚姻譚 amazon
(再婚について)新らしく着物を着変えるようにしか思っていない
横光 利一 / 悲しみの代価「日本の文学〈第37〉横光利一 (1966年) 悲しみの代価 日輪 上海 他」に収録 amazon
(結婚披露宴)平凡な庶民がマリー・アントワネットのごとく着飾ることを許される、一生一度の機会だぞ。
中村 うさぎ / 浪費バカ一代―ショッピングの女王〈2〉 amazon
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恋愛・恋する・恋心の表現・描写・類語(恋愛のカテゴリ)の一覧 ランダム5
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「心」の言葉を含む好きの表現・描写・類語(恋愛のカテゴリ)の一覧 ランダム5
彼女の、もうあまり燃えやすい部分は残っていなかったはずの心の中で、唐突に燃え立ち始め、勢いを増してゆく火だった。
平野 啓一郎「マチネの終わりに (文春文庫)」に収録 amazon
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「恋愛」カテゴリからランダム5
有島武郎 / 或る女
子猫のように体をくねらせてキスを投げる
岡田 なおこ / 薫ing(イング) amazon
身体を離してから、息がおさまるのを待つ間にそのまま眠り込んでしまうことが多い。こもった熱を全身の毛穴からゆっくり放散させながら、怠惰に過ごすこの時間が十和子は好きだ。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
パパを取り巻いている恋の熱が心地よく感じられた
よしもとばなな / まぼろしハワイ「まぼろしハワイ」に収録 amazon
「好き」カテゴリからランダム5
日ごろあれほどかわいがってやっているのに、……憎さは一倍だった。
有島武郎 / 或る女
泣けるくらいに心にしみる
吉本 ばなな / キッチン「キッチン (角川文庫)」に収録 amazon
恍惚とした無抵抗状態になる
岡本かの子 / 巴里祭
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