ほのかに白んでゆく明け方の凍てついた空気の底

乳白色の夜明けが闇を溶かし始める

朝靄（あさもや）のなかに明けて行く水みずしい外面

まだ家中の誰もが眠っているような時刻

朝の畳のひっそりした感触などが、異様に鮮かな重みをもって伸子の心に写った。

陽は沈み、闇がたちこめている。

西の空がかすかに赤かったが、それは街並に落ちるまでには至らなかった。光は、 暗澹あんたん と横たわる大気を射抜く力も 失せ、逆にすべての光沢を 覆うかのように忍び降りては死んでいく。ときおり、狂ったような 閃光 が 錯綜さくそう することはあっても、それはただ 甍いらか の雪や市電のレールをぎらつかせるだけで終わってしまう。

夕陽が葉を撫でるようにオレンジ色の匂いを振りまいている。

暁光 が川筋から湿気をあぶり出している。

夜は 殆ほと んど明け放れていた。