窓の外を眺めながら答えた祐一の声が、風に飛ばされる。

窓の外の風景は、行きとは逆の順序で移っていった。

一つずしりと揺れて、徐（おもむろ）に汽車は動き出した。一本ずつ眼をくぎって行くプラットフォオムの柱、置き忘れたような運水車、それから車内の誰かに祝儀の礼を云っている赤帽――そう云うすべては、窓へ吹きつける煤煙（ばいえん）の中に、未練がましく後（うしろ）へ倒れて行った。

飛び去る景色の何もかもが速く、新鮮に映る。

窓ガラスに額を押しつけて、流れていく夕陽に染まった景色を見つめている。

単調に重畳した丘々

全山雲にかかった山の景観

森のような茂み

ドミノのようにきっちりと並んだ団地

地盤の低い家々の庭や門辺に立っている木々の葉が（見える）

家族の死を告げる妖精の泣き声のような、長く尾をひくパトカーのサイレン

どこに円盤があるってんだよー、と笑いまじりに私が言いかけたとき、眼前の暗い町並みとネオンのがたがたした切り絵と空の区切りのラインから、ちょうど目線のあたり、夜空を切りわけるようにツーっと、左から右、光る飛行機雲のようなものが横切った。 　はっとした。 　それは私たちの目の前の景色の真ん中あたりで、地上のどのようなマシーンよりも優雅な止まり方でぴたり、と止まって、 　ぴかーっと輝いて、消えた。 　私が今までに見たどの光よりも 凄烈 だった。想像して言うなら、苦しみのうちに胎道を通りぬけて、初めてこの世に生まれ出る瞬間のまぶしさのようだった。それくらい美しく、清らかで、くりかえせない発光だった。いつまでも見ていたかった。

乗り込んでみるとマッチ箱のような汽車だ。

中年の運転手は、まるで舳先（へさき）に立って不吉な潮目を読む老練な漁師のように、前方に途切れなく並んだ車の列を、ただ口を閉ざして見つめていた。

（波が船の）窓のところへドッと打ち当り、砕けて、ザアー……と泡立つ。そして、そのまま後へ、後へ、窓をすべって、パノラマのように流れてゆく。