田舎の通りには人がいなくて、自動車が通ることも稀で、ただ静かに草木を渡る風の音がした。

田舎 駅についてドアが開くと、空気の匂いが変わったことがわかった。もの音の響き方も心なしか違ってきたようだった。沿線に畑が目立つようになり、農家風の建物が増えていった。乗用車よりは軽トラックの数が多くなっていった。

周囲の住宅は少しずつ疎らになっていって、やがて木立に囲まれた未舗装の山道に入った。

田畑に唐突に置かれた積み木みたいな、小さな踏切。

住人の大半は六十歳以上だ。生活用品を売っている店は一軒しかない。郵便局も学校もない。切手を買ったり小包を出したりしたければ、手紙を配達しにくる郵便局員に頼む。宅配便は、中地区まで行って出すしかない。ちょっとした買い物をしたいときは、山をいくつも越えて久居という町まで車で行く。 　不便を絵に描いたような場所だ。

夕日を照りかえしてどこまでも続く山脈

建物が揺れ傾くような地響き

東京の風景は、なんだか乱杭歯の口を思わせる、見たことのないものに変貌していた。 　例の、疎開政策のせいなのだろう、家があったはずの場所が、ぶっきらぼうな更地になっているのだった。中には空襲で壊された家もあったかもしれないが、多くは空襲対策で倒壊させられたものだった。

頭に火山礫の色を戴（いただ）い厳めしい姿で、富士が窓一面にかぶさって来る

巨大な岩が轟然たる音を立てて転げ落ちる