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前後の文章を含んだ引用

......に、ただただ、圧倒されていた。「送るよ、家まで」と彼は唇と唇の狭間で囁いた。「行こうか」　彼の息はいい匂いがした。わたしは甘い蜜で潤った口を閉じ、うなずいた。　生命力。それはまさしく性の扉を開くための潤滑油だ。　健康であるかどうかは関係がない。死にかけている男と死にかけている女であっても、命尽きようとする寸前、互いの中にまだ生命の力がひと握り残されてさえいれば、最後の性の焰を燃え上がらせることはできる。たとえそれが、指先と指先を触れ合わせることだけで終わったとしても、それは当人同士にとっては立派な性的ふれあい、いわば性交に匹敵するものなのだ。　生きて〝在る〟ことに対する満足感こそが、健全な渇望を生む。渇望は粘膜を潤わせる。そして、性の扉の蝶番は軋み音ひとつたてずに、いっそうなめらかに開かれるのである。　あの晩のことを思い返すたびに、わたしは時々、そんなことを考える。　野呂は初めからわたしに、燃えたぎる生命の力を感じさせてくれる男だった。彼は、自分が生きて〝在......

単語の意味

渇望（かつぼう）

満足（まんぞく）

渇望・・・のどが渇いた気に水を欲しがるように、心から望むこと。

満足・・・１．自分の思い通りになって、不満がないこと。これ以上注文のつけようがないこと。申し分がないこと。
２．十分なこと。完全なこと。