引退したパチンコ店というよりは、現役の廃墟

人の住まない家は確実に朽ちていく。その別荘は疑いもなくあともどりできるポイントを通り過ぎていた。

真っ黒に焼け落ちた残骸

時の止まった遊園地。シンボルであったはずの観覧車のゴンドラは今にも落ちそうだ。

今にも崩れそうな古い家

米空軍の空襲たけなわな東京や横浜の焼けただれた風景や、もはや「敗戦必至」となった絶望感とが、嘘のように感じられた。

前線では激しい銃撃戦が繰り広げられており、腕や脚や目を失った人々が、見捨てられた亡霊のように通りをさすらっていました。

デパートも内部はすっかり焼けて外郭だけが残っているのである。

狐火のような焔が暗い空からチョロチョロ這い降りて来ては、ぱっと地上に燃えつく焼夷弾

死人の異様な臭気が鼻をつく

口のすみだけに始めて笑いらしいものを漏らした。それがまた普通の微笑とも皮肉な痙攣（けいれん）とも思いなされた。

重量級のボクサーに挑む軽量級のボクサーのようなものだ。

また一つ爆発音が轟いて、また一つ轟いた

零戦は雷撃機の群れに、猟犬のように襲いかかりました。

人の心など簡単に離れてしまうのだなと雪見は思った。

四機の爆撃機から、爆弾が離れるところが見えました。時間としては一瞬の事だったのでしょうが、まるでスローモーションの映像のようでした。四つの爆弾がゆっくりと笑うように降りかかって来ました。空気を切り裂くその音はまさしく鬼の笑い声のようでした。

（遺体安置室）父親の遺体は、療養所の目立たない一画にある、目立たない小部屋に安置されていた。《…略…》父親は移動式のベッドの上に仰向けに寝かされ、白い布をかけられていた。窓のない真四角な部屋で、白い壁を天井の蛍光灯がいっそう白く照らしていた。腰までの高さのキャビネットがあり、その上に置かれたガラスの花瓶には、白い菊の花が三本さしてあった。花はおそらくその日の朝に活けられたのだろう。壁には丸形の時計がかかっていた埃をかぶった古い時計だが、指している時刻は正確だった。それは何かを証言する役目を担っているのかも知れない。そのほかには家具もなく装飾もない。たくさんの老いた死者たちが同じようにこの簡素な部屋を通過していったのだろう。無言のままここに入ってきて、無言のままここを出て行く。その部屋には実務的ではあるが、それなりに厳粛な空気が大事な申し送り事項のように漂っていた。

速度を落としていく。今度は、ちょっとした渋滞が発生しているらしい。

裏口から逃げるように帰る

（空襲で燃える画集）この画集もまた数知れぬ白い輝きを連ねて夜空を押し渡り襲うて来るＢ 29 の重い翼の嵐の下に、はね上る油玉と共に燃え、ただ曲りくねった鉛のガス管や、紫色に焦げてゆがんだ裸の鉄骨や熔けて薄緑に固まったガラスの塊などの間に、形もない灰となって残ったのである。この写真版の絵画集が、油脂焼夷弾の飛び火を浴びて、綴り合わされた絵の一枚一枚が、流れる黒い液体のような炎の中に焦げて剝れながら燃えて行った

つただらけの壁。鉄の黒くて重い門、門灯は切れっ放しで、割れたガラスの破片をじゃりじゃり踏み越えて、枯葉に埋もれた石段を登ると、玄関へたどり着く。手入れをしていない庭はジャングルと化し、猫がたくさん住んでいた。

それはカッフェと云う名を与えるのも考えものに近いカッフェだった。

厚い檜皮ぶきの屋根が、重く暗い量感で、おそろしく迫って来た

白堊（はくあ）が、ゴミゴミした黝（くろ）い甍（いらか）の上に聳（そび）え立っていた。それは、早春の土を破った、草の芽のような力を感じさせた。

校舎の屋根の下に入り、雨と風を避けると、空に浮いた飛行船の影に包まれているような感じがした。