不思議な憎しみといとしさがこんがらかって葉子の心の中で渦巻（うずま）いた。

清らかな小川のように陽の光に美しく輝き、風に吹かれると無数の優しい小波（さざなみ）を立て《…略…》そうしたものをこそ、愛であると思い込んでいたのです。

悲しい花びらのような愛情

遠ざかれば忘れてしまうに違いない希薄な愛情が、薄ら氷のようにきらきら美しい

死ぬ程、愛し合っている

生あたたかい波に揺られているような思い

一緒にいると自分の人生が一段階上に引っ張り上げられた気になる

自分は、沙金（しゃきん）に恋をしている。が、同時に憎んでもいる。

互のよいところで鼓舞し、仕事で励み合うという種類の友愛

言い放ちたい気持ちを熱い石のように抱く

動きを止めてからも、なお体をすり寄せてくるまち子の体を触りながら、邦彦は鋭利な刃物で切り刻まれたような鈍痛を自分の体の中に感じていた。 　いつしか路上の男ふたりも去ってしまい、邦彦の 猛り気負うたものも引いて行って、ただ青い色をたたえた熱気と、歓楽街の 喧噪 だけが、狭い和室を埋め尽くしていた。

いつも少し困ったふうに人の顔を見つめる彼のまなざしは、私の心の一部分を指先でつまみ、シーツにしわが寄ったときのような襞をつくる。

そのキスは決まって、朝の眠たい身体の奥深く、生温かくくすぶっていた欲望の扉を開け放った。

あらん限りの力をこめて倉地を引き寄せた。膳（ぜん）の上のものが音を立ててくつがえるのを聞いたようだったが、そのあとは色も音もない焔（ほのお）の天地だった。すさまじく焼けただれた肉の欲念が葉子の心を全く暗（くら）ましてしまった。天国か地獄（じごく）かそれは知らない。しかも何もかもみじんにつきくだいて、びりびりと震動する炎々たる焔（ほのお）に燃やし上げたこの有頂天（うちょうてん）の歓楽のほかに世に何者があろう。葉子は倉地を引き寄せた。倉地において今まで自分から離れていた葉子自身を引き寄せた。そして切るような痛みと、痛みからのみ来る奇怪な快感とを自分自身に感じて陶然と酔いしれながら、倉地の二の腕に歯を立てて、思いきり弾力性に富んだ熱したその肉をかんだ。

おやすみ、とわたしたちは言い合って、最後にキスを交わした。 　二度にわたる性交の後のキスは、 凪いだ水面のように穏やかで、優しかった。