(すばらしいフラダンサー)ひとたびあざみさんが右足を前に出して踊りのかまえに入り、音楽やイプという太鼓の音が聞こえてきた瞬間に、何かが変わる。彼女をとりまく空気もぴんとはりつめ、空間がさあっと広くなるのがわかる。 ほんとうにすばらしいダンサーは世界を止めることができるのだと私は思っていた。 そして彼女が踊り出すと、そこから魔法が始まる。感覚の全てがオンになって、彼女は自分から選んで神や世界への供物になる。きっと神様はどん欲で、お米や花や果物が盛ってあるお皿では満足しない。美しく神聖な女が動いていないとだめなのだ。美しい肉体は別に求められていない。きっと彼女のまわりで動いている空気の色や質が見たいのだと思う。 神様、その気持ちわかります。と私はいつでも思う。そう思うとき、神様を近しく感じる。 これ以上に神が創った世界を讃えるやりかたがあるだろうか、とあざみさんの踊りを見ていると思うのだ。あざみさん本人さえも世界への愛を表す道具になってしまうくらいに、踊りは彼女を乗っ取り、この世の奇跡の流れの一部にしてしまう。
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フラダンス
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前後の文章を含んだ引用
......ざみさんはふだんもきれいだが、ふだんの彼女は必要以上にオフになっていると思う。その美しさの半分も表に出していない。ただのちょっときれいな人という程度だ。 しかしひとたびあざみさんが右足を前に出して踊りのかまえに入り、音楽やイプという太鼓の音が聞こえてきた瞬間に、何かが変わる。彼女をとりまく空気もぴんとはりつめ、空間がさあっと広くなるのがわかる。 ほんとうにすばらしいダンサーは世界を止めることができるのだと私は思っていた。 そして彼女が踊り出すと、そこから魔法が始まる。感覚の全てがオンになって、彼女は自分から選んで神や世界への供物になる。きっと神様はどん欲で、お米や花や果物が盛ってあるお皿では満足しない。美しく神聖な女が動いていないとだめなのだ。美しい肉体は別に求められていない。きっと彼女のまわりで動いている空気の色や質が見たいのだと思う。 神様、その気持ちわかります。と私はいつでも思う。そう思うとき、神様を近しく感じる。 これ以上に神が創った世界を讃えるやりかたがあるだろうか、とあざみさんの踊りを見ていると思うのだ。あざみさん本人さえも世界への愛を表す道具になってしまうくらいに、踊りは彼女を乗っ取り、この世の奇跡の流れの一部にしてしまう。 いっしょにいると、そのことを忘れて甘えたりけんかしたり憎まれ口をきいたり仲直りしたり、普通のふたりなのだが、踊りとなると私は彼女を尊敬せずにはおれない。 初め......
単語の意味
肉体(にくたい)
満足(まんぞく)
肉体・・・肉から構成されている体。生きている人間の体。生身の体。
満足・・・1.自分の思い通りになって、不満がないこと。これ以上注文のつけようがないこと。申し分がないこと。
2.十分なこと。完全なこと。
2.十分なこと。完全なこと。
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フラダンスの表現・描写・類語(動作・仕草・クセのカテゴリ)の一覧 ランダム5
(フラダンス)それに、ステージの上のあざみさんはだれよりも輝いていた。 長い髪の毛が生き物のように揺れ、スカートがきちんとリズムを刻んで、顔はうっとりと優しく微笑み、肌はぴかぴかに黒かった。裸足の足が床に触れるごとに世界が喜んでいるのがわかった。ああ、世界は今彼女を愛している。そして彼女も大きな美しさを世界に返している、そう思った。 その交歓は官能的ではあったが、全く 淫靡 ではなかった。 まるで花が性器であるその部分を太陽に向かって大きく開いてその香りや色で人びとや虫たちを幸せにしているような感じだった。生まれてきたこと、今、この世に存在することの歓びがあふれていた。それは一方的なものでなくて、世界も彼女がいることを喜んでいるのだった。踊りという言葉でそれは空間に広がって、また戻ってくる。その光に私は魅せられた。 ああ、こういうのが恋っていうんだ。世界も彼女に恋をしているけれど、彼女を欲しがってはいない、そう感じた。それなのに彼女は全身が蜜みたいに甘くしっとり濡れている。世界は彼女を見たがっている。
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(フラダンサーは)病室でも踊っていた。最後の日のパパはそれをうっとりと見ていた。天女を見るみたいな目で。
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(フラダンサー)踊りが終わったら、マサコさんは感情でいっぱいの、日常を生きている人間に戻ってしまうが、今は時を超えて存在している永遠の命、踊りの精なのだ。
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(すばらしいフラダンサー)ひとたびあざみさんが右足を前に出して踊りのかまえに入り、音楽やイプという太鼓の音が聞こえてきた瞬間に、何かが変わる。彼女をとりまく空気もぴんとはりつめ、空間がさあっと広くなるのがわかる。 ほんとうにすばらしいダンサーは世界を止めることができるのだと私は思っていた。 そして彼女が踊り出すと、そこから魔法が始まる。感覚の全てがオンになって、彼女は自分から選んで神や世界への供物になる。きっと神様はどん欲で、お米や花や果物が盛ってあるお皿では満足しない。美しく神聖な女が動いていないとだめなのだ。美しい肉体は別に求められていない。きっと彼女のまわりで動いている空気の色や質が見たいのだと思う。 神様、その気持ちわかります。と私はいつでも思う。そう思うとき、神様を近しく感じる。 これ以上に神が創った世界を讃えるやりかたがあるだろうか、とあざみさんの踊りを見ていると思うのだ。あざみさん本人さえも世界への愛を表す道具になってしまうくらいに、踊りは彼女を乗っ取り、この世の奇跡の流れの一部にしてしまう。
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「動作・仕草・クセ」カテゴリからランダム5
口が曲がりそうなほどしょっぱいなみだ
谷崎 潤一郎 / 痴人の愛 amazon
(投影)たとえばこのプレスリーの(薬物中毒の)記事を読むと、おれは鏡の部屋の中で(アル中の)自分のよどんだ顔つきを見ているような気分になってくる。
中島 らも / 今夜、すベてのバーで amazon
叩かれた犬のような眼をして後ずさりする
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