見下した往来には、無数の人があちこちと、虫のように蠢（うごめ）いていた。

この大平と云う所は庚申山の南側で天気のいい日に登って見ると赤松の間から城下が一目に見下（みおろ）せる眺望佳絶の平地で

見下ろすと、ホテルの脇のコンクリートの空間を、車が半円を描いて道路へすべり出して行く。

（飛行機の）窓からは、水平の視線の先に青空が広がっていて、薄い雲が、巨大な地図めいた日本列島を、繊細なレースのように覆い隠している。北側の窓なので、 眩し過ぎず、ただ明るいばかりの光だった。

（山から見下ろした夜明けの風景）中の海のむこうから海へ突き出した連山の頂が色づくと、美保の関の白い燈台も陽を受け、はっきりと浮び出した。間もなく、中の海の 大根島 にも陽が当り、それが 赤あか 鱏えい を伏せたように平たく、大きく見えた。村々の電燈は消え、その代りに白い 烟 が所々に見え始めた。然し麓の村は未だ山の陰で、遠い所より 却って暗く、沈んでいた。謙作はふと、今見ている景色に、自分のいるこの大山がはっきりと影を映している事に気がついた。影の輪郭が中の海から陸へ上って来ると、米子の町が急に明るく見えだしたので初めて気付いたが、それは停止することなく、ちょうど 地じ 引網びきあみ のように 手繰たぐられて来た。地を 嘗なめて過ぎる雲の影にも似ていた。中国一の高山で、輪郭に張切った強い線を持つこの山の影を、そのまま、平地に眺められるのを 稀有 の事とし、それから謙作は或る感動を受けた。

さっと流れて来る光のなかへ道の上の小石が歯のような影を立てた。

遙か遙か下界に、八月の熱気でぼーっと、水色がかった真珠色に霞んだ地平が見晴せた。

隙間なく生え揃った芝が滑らかな緑の毛氈（もうせん）を敷きつめたように静か

岬のような形に偃（は）うている水田

のこぎりの歯のように連なっている