大きな窓から、はるか眼下の静岡市街が一望できた。夏の日差しを浴びた街並みが、ハレーションを起こして白々と輝いている。

普 段 下からばかり見上げていた柿の木が、今は足の下にある。

東京の中央部から下町へかけての一面の灯火の海が窓から見下ろせる。浪のように起伏する灯の粒々（つぶつぶ）やネオンの瞬きは、いま揺り覚まされた眼のように新鮮で活気を帯びている。

標高が上がって、耳がツンとした。

（山から見下ろした夜明けの風景）中の海のむこうから海へ突き出した連山の頂が色づくと、美保の関の白い燈台も陽を受け、はっきりと浮び出した。間もなく、中の海の 大根島 にも陽が当り、それが 赤あか 鱏えい を伏せたように平たく、大きく見えた。村々の電燈は消え、その代りに白い 烟 が所々に見え始めた。然し麓の村は未だ山の陰で、遠い所より 却って暗く、沈んでいた。謙作はふと、今見ている景色に、自分のいるこの大山がはっきりと影を映している事に気がついた。影の輪郭が中の海から陸へ上って来ると、米子の町が急に明るく見えだしたので初めて気付いたが、それは停止することなく、ちょうど 地じ 引網びきあみ のように 手繰たぐられて来た。地を 嘗なめて過ぎる雲の影にも似ていた。中国一の高山で、輪郭に張切った強い線を持つこの山の影を、そのまま、平地に眺められるのを 稀有 の事とし、それから謙作は或る感動を受けた。

窓の外にまぶしく光る、真昼の雲の海を見るのはとても妙な気分だった。

雲海の中に虹の橋がかかっている。

（夕方の雲海）雲海は、オレンジ色からピンク色に、そして紫色へと変わっていった。

綿のような雲の野原を見下ろす

眼下には、輝く絨毯みたいな雲がいちめんに広がっている。

飛行機の機体が激しく揺れる

（巨大な炎を吐く飛行機は、）ゆっくりと滑走路を滑り始めた。地面が揺れている。銀色の巨大な金属は徐々にスピードを増す。ピッチの高い音で空気が燃えているように感じる。《…略…》胴体の脇に付いたさらに巨大な四機の筒が青い炎を吐いた。《…略…》飛行機は白い腹が浮いたかと思うと、あっという間に雲の中に吸い込まれた。

鹿児島湾の上空を、古ぼけた練習機が飛んでいた。《…略…》極度にのろい速力で、ちょうど空を這っているように見えた。

二本の飛行機雲が電車の線路みたいに平行にまっすぐ西に進んでいくのが見えた

飛行機の黒い大きい影が疾風のように地面をかすめ去った。

窓のはるか下には、陽にさらされた緑の島々が見えている。あまりにもくっきりしていて、写真のようだった。海は濃い青のグラデーションで、波頭がとがった白い紋様に見えた。

窓の外にまぶしく光る、真昼の雲の海を見るのはとても妙な気分だった。

（飛行機の）窓からは、水平の視線の先に青空が広がっていて、薄い雲が、巨大な地図めいた日本列島を、繊細なレースのように覆い隠している。北側の窓なので、 眩し過ぎず、ただ明るいばかりの光だった。

奮発してビジネスクラスを取ったので、驚くほど広々とした空間を所有していた。

僕は奇妙に非現実的な月の光に照らされた道を辿って雑木林の中に入り、あてもなく歩を運んだ。そんな月の光の下ではいろんな物音が不思議な響き方をした。僕の足音はまるで海底を歩いている人の足音のように、どこかまったく別の方向から鈍く響いて聞こえてきた。時折うしろの方でかさっという小さな乾いた音がした。夜の動物たちが息を殺してじっと僕が立ち去るのを待っているような、そんな重苦しさが林の中に漂っていた。

鮮やかな直線と曲線で区画された田畑が延々と続く風景は、一幅の名画さながら

のっしのっしと坂道を登っていく

杉林は、夜の漆黒を抱え込んでいる。奥に足を進めると、暗い空気が身体を囲んできた。足を踏み出すたびに、自分の身体が黒く染まり、さらに足を出すと、影に舐められる。

吹き飛ばされるかのように、後ろへ通り過ぎていく建物を目で追いながら

一人むす子と離れて来た母親に取って、バスは、寂寥（せきりょう）を護（まも）って呉（く）れる団欒的（だんらんてき）な乗りものだった。

バスがエンジンをかけて身震いを始めた

翼全体から銃火を噴いた飛行機が翼で殴りつけるような超低空で過ぎた。

山の迫った海岸線に沿って、特急列車が大きなカーブを描いたとき、空に浮かんだ月が見えた。月はそれから、カーブにあわせて窓の外をゆっくりと移動して、やがて視野から消えていった。

鹿児島湾の上空を、古ぼけた練習機が飛んでいた。《…略…》極度にのろい速力で、ちょうど空を這っているように見えた。

空が不透明な藍色に留まっている

赤く焼けて長く横に引いた幾すじもの西の空の雲の波を眺めていた。

春の紺碧（こんぺき）を斑（まだら）にしている白い雲が明るく、まばゆく、うごいている。

草原が月に照されて傾き、道は草の影を 孕んで黒かった。

（赤い月）赤い月が墓地に出ていた。火のついた街では氷を削るような音がしている。