眠っているときにしばしば見せる夢のような笑顔

上掛けのカバーに涎の染みをひろげて眠りこけている。

死に顔みたいにきれいな寝顔

かおるは寝てしまったのか、目を閉じて両手を胸のところに重ねていた。顔にも唇にも血の気が少なく、しょんぼりとした寝顔だった。

スヤスヤ眠っている母の顔を何の気もなく見ますと、口を少し開（あ）いて、頬が真赤で、額が瀬戸物のように真白く透きとおっていて、不思議なくらい若く見えました。

少しやつれた頬

元来むくんだような豊かな頬に青く膨れた肉が増している

（顔の）元来の骨格が多角性であって、その骨格通りにふくれ上がるのだから、まるで水気（すいき）になやんでいる六角時計のようなものだ。

鑿（のみ）で一えぐりして出来たかのような滑らかなしまった頬

カマキリのように、極端に顎の小さい顔

（いびきのようなうめき声）鼾いびきはしばらく続くとすぐ途切れ、高くなり低くなり、調子の悪い笛のように聞えた。

私はまっさらのシーツと毛布の間にすべりこんだ。

わたしはこの頃夜中なにかに驚いたように眼が醒める。頭はおまえのことが気懸りなのだ。

（頭を撫で続けられて眠れない）なで続ける手　眠たくてもったりとした意識がちょうど彼女の指先に引っかかったまま、落ちるべきところに落ちてくれない　身体の方が先に落ちそうで、意識が肉体を支配しきれなくなってきて、金しばり状態になるのが嫌だから寝返りをうつ　手は追いかけてくる　かんべんしてほしい、肘をまっすぐ伸ばしたい　ベッドを完全に　手に入れたい　一人で　ねむりたい

天保山（てんぽうざん）の安宿の二階で、何時（いつ）までも鳴いている猫の声を寂しく聞きながら、私は呆（ぼ）んやり寝そべっていた。