光が樹木に遮られて壁に作る黒ずんだ意匠

苔（こけ）の上に木の影が踊（おど）って

影がゴムのように長くなる

（夕方、競技場の影）競技場を 挟んでちょうど真向かいにあたる観覧席の上段に、三本のポールが立っていて、それが邦彦と老人のいる場所まで長い影を落としていた。三本の影は、楕円形の競技場の中心を貫いて、邦彦の背後のまだずっと遠くへと伸びていた。どんな強風にも左右されない一直線の影というものが、邦彦には妙に不思議な現象に思われた。 　ポールが揺れないかぎり、影も決して揺れはしないのだと、邦彦は新しい物理的法則を発見したかのように、その三本の黒い線を見つめた。

光でも影でもない、ちょうど中間の領域

男の子の横顔が、かげりはじめた陽の光に染まっていた。ほっそりした輪郭が、揺らめいて見えた。

眼にあたる光の中で少し 眩暈めまい を感じながら、

わずかに俯いた彼の横顔で白く濁った日光が弾け、表情を塗りつぶした。白い凹凸だけになった微笑が、仮面のように被さっていた。

陽の光が微笑をたたえた彼の顔を平たくして、司祭は 澳門マカオ で見た仏像を思いだす。

テールランプに染まった佳乃の姿は、まるで燃えているようだった。

街灯が光の輪を路地に落とす

薄明かりがぼっと光る

田に敷かれた水がはるか足下で月光を 弾いている。

遠く上野の電気燈が鬼火のように見えているばかりだ。

ランプの光で顔がフィルムのネガのような陰影を作る

葉子だけは春が来てもやせた。来るにつけてやせた。ゴム毬（まり）の弧線のような肩は骨ばった輪郭を、薄着になった着物の下からのぞかせて、潤沢な髪の毛の重みに堪（た）えないように首筋も細々となった。やせて悒鬱（ゆううつ）になった事から生じた別種の美――そう思って葉子がたよりにしていた美もそれはだんだん冴（さ）え増さって行く種類の美ではない事を気づかねばならなくなった。その美はその行く手には夏がなかった。寒い冬のみが待ち構えていた。

特筆すべきなのはその威圧感だ。身長も一八〇センチと高く、プロレスラーのようなその体格は、大学時代に柔道の国体選手に選ばれたという実績を納得させるに十分だった。

そのふくらみに朝日が反射し、白い肌が滑らかに光っている。ふたつの胸の間には、青く深い影が湖のようにたまっている。

柔かな午後の光が、古い静物画のように彼女の体をそっと包んでいた。

すでに日は落ち、駐車場を強いライトが照らしていた。足元に二人の濃い影が伸び、ときどきパーキングの白線と交わる。