彼女は赤いシャツを着ていた。闇によく合っていた。

町々は、夜になると、ひっそりと暗い闇につつまれてしまう。 　古い京の町が、そのまま闇の中に息づいてい、細い道には車も人も通らず、人声も絶えてしまう。 　そこに私は、むかしの江戸の町の夜の姿を感じることができる。

夜の黒々とした空気に押し潰されるのではないか、とそんな圧迫感が嫌で、とにかく大通りに出たかった。

夜は油のように重く、静かに町並みを満たしていた。あらゆる路地、街角が意味を持って暗く黙っているようだった。

夜が近づいて、その夜の入り口からも人はどんどんあふれてくるようだった。

しばらく見入ってしまうほどの凄まじい夕焼け

（暗闇に見える風景）これはすばらしい銅板画のモテイイフである。黙々とした茅屋（ぼうおく）の黒い影。銀色に浮かび出ている竹藪の闇。それだけ。わけもなく簡単な黒と白のイメイジである。

透けた夜空の向こう側、宇宙の中身がうっすらと見える。きっと明日は晴れるのだろう。

遠くからたそがれを告げる鐘が聴こえていた。

墨汁みたいな夜が、私たちを飲み込みそうになっていた。