冷ややかさを増した風が、凍えた電線のあいだを鋭い音を立てて吹き抜けていた。

吹き込んでくる風の音がピッチ感の悪いリコーダーのようで耳につく

強い風が屋根をかっさらうような音を立てる

遠く高い空の果てから、冷たい風の響きが悲しげに燈多き街の方へと走って行った

風が（葉の落ちた）ケヤキの枝のあいだを、鋭い音を立てて抜けていった。絶望を知った人の歯の隙間から出て行く酷薄な息のように。

スピーカーは町中の屋外にも設置されているから、放送は山々に反響して輪唱のように重なっていく。

市電や自動車の騒音や、何やら人声らしい音の塊や、遠くからのポンポン船の響きなどが、舟の家のはるか彼方でうねっていた。

（ギターコンサート）《黒いデカメロン》の一曲目〈戦士のハープ〉が、緊迫した、ほとんど魔術的なほどに広大な二オクターヴの跳躍で始まると、会場はもう、つい今し方までとは別の空間になっていた。反復的な旋律が次第に空気を濃くしてゆく中で、ギターの長音が、会場の最も遠いところにまで何にも遮られることなく、真っ直ぐに伸びてゆく。この曲をよく知っている者、知らない者が、それぞれに、その 縹渺 たる響きに驚いた。 　それがまるで一つの予告であったかのように、蒔野はその後、一曲ごとに、とても同じ一本のギターで弾いているとは思えないほどの多彩な表現で、次々と、新鮮な音楽的風景を現出させていった。 　かつての一分の隙もない、あまりに完璧に律せられた世界とも違って、今はむしろ、音楽そのものに少し自由に踊らせて、それを見守りつつ、勘所で一気に高みへと導くような手並みの鮮やかさがあった。それもまた、長い〝スランプ〟の果てに、彼に生じた一つの変化だった。 　聴衆の感嘆は、楽曲が終わる度に拍手に熱を加えていった。

下校したあとで、楽器の音も駆け足の音も聞こえてこなかった。校舎の影がのびる校庭には、静けさが淀んだ水のように満ちていた。

坂道を降り切ると、川瀬の音が一斉に立ち上ってきた

海鳥は羽を動かすが風に拒まれて前に進めない

その声もまるでちぎるやうに風が持って行ってしまひました。

枯れた河岸の柳の木が、腰をもみながら大風にゆれている。

じっと耳を澄ましているとほんのわずかの風の切れめから女の声らしきものがちらりと聞こえたような気がしたが、それもあるいは僕の錯覚かもしれなかった。

馬車のなかは、水のような風がすいすい吹き通った。