沖から寄せる海嘯（かいしょう）の叫び声

綿の棒で大地を撲ったような波の音

海はいつも予想の二〇％ くらい大きいから。そうとうの大きさを予測して見に行くと、更にその二〇％ 大きい。もっと大きいと思って行っても、そのかくごの二〇％ 大きい。一面の波で心をいっぱいにしていっても、小さなビーチを想像していっても、やっぱり二〇％。 　こういうのを無限っていうのか。《…略…》波音は人をすこし不安にする。常に二〇％ 広い風景を前にしていると、心もとない。 　そのことは私をおかしな中庸に導いた。 　空と海が交わるあの奇跡の直線にシンクロして、どこまでも平らになってしまったというか。 　何とも静かでクリアーだった。

波が寄せ返す音を繰り返し奏で

岸を洗う静かな波音

引き金を絞る

風がどうと吹いて来て教室のガラス戸はみんながたがた鳴り、学校のうしろの山の萱（かや）や栗（くり）の木はみんな変に青じろくなってゆれ

ズボンのポケット内の携帯電話にバイブレーションを感じた。

ポーっと鋭い汽笛を鳴らす

相棒が用事で出ていってしまうと部屋は急にがらんとした。電気時計の針だけが音もなく回りつづけていた。

私はちょっと泣いていた。もしここが海辺でなかったら、その不在の強烈さはこんなに強く襲ってこなかっただろう。

沖から寄せる うねり の長い弓なりの線

大小の鯨のような岩が波をかき回す

灯台はずんぐりと黒く、ちょうど鐘をすっぽりと伏せたような形をしている。考えごとをしている男の後姿のようでもある。日が沈み、薄い残照の中に青みが流れる頃、鐘の取手の部分にオレンジ色のライトが灯り、それがゆっくりとまわり始める。灯台はいつも夕闇のその正確なポイントを捉えた。見事な夕焼けの中でも、暗い霧雨の中でも、灯台の捉える瞬間は常に同じだった。

ところどころに背の低い草が群がる川原