灌木の葉末のおびただしい露には、朝焼けの名残が映って、時ならぬ淡紅の実が生ったかのようである。

私はいすにかけた。正面の窓からまっすぐに陽が 射してきて、久しぶりに浴びる朝の光は、体中にしみてくるようだった。そして朝の台所に立つ母の後ろ姿は、すっきりと小さくて、何だか新婚ごっこをしている高校生みたいに見えた。

戸板の杉（すぎ）の赤みが鰹節（かつおぶし）の心（しん）のように半透明にまっ赤（か）に光っているので、日が高いのも天気が美しく晴れているのも察せられた。甘ずっぱく立てこもった酒と煙草（たばこ）の余燻（よくん）の中に、すき間もる光線が、透明に輝く飴色（あめいろ）の板となって縦に薄暗さの中を区切っていた。

霧はだんだんと薄らいで来た。そうして、森や草叢（くさむら）の木立（こだち）の姿が、朝日の底から鮮（あざや）かに浮き出して来る

暖められていく空気の匂いを嗅ぎながらコーヒーを入れる

裸で朝の光の中に立った。まるで充電しているみたいに。

僕は午前八時半に目を覚ました。前日と同じように雲ひとつない上天気だった。まるで昨日のつづきみたいだな、と僕は思った。夜のあいだ 一時 中断していた人生のつづきがまた始まったのだ。

ひっそりと立つ小さな五輪の石塔が、 薄墨 に溶け夜の闇に消えてゆく

車を発進させました。灯りのともった家はありません。車のエンジン音もしんと漂う夜の空気に飲み込まれていくようです。

（部屋の中に夕陽が差し込む）ベッドや寝椅子や、クロゼットなどが濃い影を作る。それらの影は時間の経過につれて段々と長くこちらの足許に伸びて来る。