呆然と眺める

言葉をあんなに用意してまっていたのだけれど、一言も云えなくなってしまって沈黙っていた。

呆れたが、決して嗤（わら）う気（き）にはなれなかった。

惚ける

拍手を送りたくなるくらい呆れて感心する

現場が沸き立つ

株式暴落のような深刻な騒ぎ

池田屋事件の飛報を耳にして、長州藩内は鼎の沸くようであった

梁（はり）に巣を食った鼠（ねずみ）も、落ちそうな騒ぎ

蜂の巣をつついたような大さわぎ

青ざめた顔の中で唇だけが赤い

蠟ろう のように蒼ざめた男

離婚のショックでノイローゼになって

青ざめて首に細い血管が走る

泣きそうな衝動が喉元からせり上がってきて、二の句が継げなくなる。

沈痛な声

自分自身を剥奪された感じ

誰かと世間話をするような気分ではない

風上にいなかったら、すぐそばでも聴こえないほど沈んだ声音

園山夫人は、おそらくその時点で、死んでいたのかもしれない。心臓は動いているが、心は閉ざしていた。呼吸はするし、食事も摂るが、笑うことをやめた。

（雨に濡れて）冷たい僕のからだで足の先だけが熱を持っている。時々その熱がゆっくりと頭まで昇ってくる。果肉を剥がした桃の種のような熱の核は、昇ってくる時、心臓や胃や肺や声帯や歯茎に引っ掛かる。

見る見るうちに 板葺 屋根をつたって拡がる炎や、煙を切る消防ポンプの白い水柱や硝子窓を打ち割り延焼防止につとめる防火頭巾をまとうた消防夫の姿や、横の広場に濡れた蒲団、家財を運び出す人々のあわてふためいた様子

三車線の第三京浜が一晩中通行止になるほどの大事故だった。

日常の惰眠から揺さぶり起こされるような、緊急事態。

（多めのヘロインを打たれて）皮膚が震えて針が離れた瞬間、もうヘロインは指の先まで駆け巡り、鈍い衝撃が心臓に伝わってきた。視界に白い霧のようなものがかかり《…略…》息を吸いたいが呼吸のリズムが変わっていてうまくできない。殴られたように頭が痺れていて口の中が焼ける程乾いている。《…略…》カラカラになった歯茎から少しだけ滲み出た唾液を呑み込むと、足先から駆け昇るように吐き気が込み上げて、呻きながらベッドに倒れた。《…略…》枕に顔を埋める。喉の奥は乾いているのにひっきりなしに唾液が唇から溢れ、それを舌ですくうたびに猛烈な吐気が下腹に襲ってくる。思いきり息をしてもほんの少ししか空気は入ってこない。それも口や鼻からではなく胸に小さな穴があってそこから漏れ込むような感じだ。腰は動けない程痺れている。締めつけられるような痛みが時々心臓を刺す。顳顬（こめかみ）で脹れた血管が思い出すようにヒクヒク震える。目を閉じるとものすごいスピードで生暖い渦の中に引き込まれるような恐怖を感じる。からだ中をヌルヌルと愛撫されて、ハンバーグに乗せられたチーズみたいに溶けていくようだ。試験管の中の水と油塊のように、からだの中で冷えきっている部分と熱をもったところが分離して動き回っている。頭や喉や心臓や性器の中で熱が移動している。