(別れを惜しむ)彼が交叉点を渡りきってふりかえってみると、彼女はまだ歩道の端に白い靴をならべてつっ立ち彼の方をみつめていた。手提袋を細い手にぶらさげ黒っぽいスカートを風に動かせて彼の方に眼を向けている彼女の哀れな姿は、一瞬彼の心を、そこに引き寄せ、二人を結ぶ細い心と心の糸を彼にかんじとらせた。が彼は軽く彼女の遠い視線に向って頭をさげるとその尾を引いたような感情の糸をはたと切ってさっさと向うへ歩き出した。
野間 宏 / 残像「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 ページ位置:32% 作品を確認(amazon)
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立ち去る
未練・心残り
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前後の文章を含んだ引用
......は彼の言葉に答える言葉を持たず、じっと彼を見上げていたが、やがて改まった固い語調になって言った。彼女は彼が交叉点を放送局の方に渡って行くのをじっと見送っていた。彼が交叉点を渡りきってふりかえってみると、彼女はまだ歩道の端に白い靴をならべてつっ立ち彼の方をみつめていた。手提袋を細い手にぶらさげ黒っぽいスカートを風に動かせて彼の方に眼を向けている彼女の哀れな姿は、一瞬彼の心を、そこに引き寄せ、二人を結ぶ細い心と心の糸を彼にかんじとらせた。が彼は軽く彼女の遠い視線に向って頭をさげるとその尾を引いたような感情の糸をはたと切ってさっさと向うへ歩き出した。二 沢木茂明は藤枝美佐子に別れて交叉点を渡り日比谷公園の方に歩いて行った。彼には虎の門にある文部省に行かなければならない仕事があったが、既にそれをする気持がなく......
単語の意味
姿・形・容・態・躰・體・軆・骵(すがた)
視線(しせん)
姿・形・容・態・躰・體・軆・骵・・・1.身体の形。からだつき。人のからだの格好。衣服をつけた外見のようす。
2.身なり。容姿。
3.目に見える、人の形。人の存在。
4.物の、それ自体の形。物一つ一つの全体的な印象。
5.物事のありさまや状態。事の内容を示す様相。
以下の文字は訓読みで、「すがた」と読める。
[形・容・態・躰・軆・體・骵]
2.身なり。容姿。
3.目に見える、人の形。人の存在。
4.物の、それ自体の形。物一つ一つの全体的な印象。
5.物事のありさまや状態。事の内容を示す様相。
以下の文字は訓読みで、「すがた」と読める。
[形・容・態・躰・軆・體・骵]
視線・・・目と、目が見ようとしているモノとを結ぶ線。目が見ている方向。見つめている方向。
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彼は、明るい光の中をはるかな遠い一点に吸い込まれていった。彼の背中が消える時、わたしは息苦しいほどに心細くなり、まばたきもせずにずっと遠くを見続けていた。しかし、その一点は雪の粒のようにもろく溶けてしまった。
小川 洋子 / ドミトリイ「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
シンデレラのように十二時になると、私の傍らから身を滑らせて消えて行く
中村 真一郎 / 遠隔感応 amazon
しばしの別れを惜しむ恋人のように、甘やかな悲しいような幸せな気持ち
壷井 栄 / 草の実 (1962年) amazon
(銀行強盗が立ち去るときのセリフ)みなさん、最後までおつき合いいただいてありがとうございました。ショウは終わりです。テントを畳み、ピエロは衣装を脱ぎ、象は檻に入れ、サーカス団は次の町へ移動します
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
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引力に抗する思いで玄関を出た
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
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後悔の気持ちに似た苦い味がする。
吉本 ばなな「アムリタ(下) (新潮文庫)」に収録 amazon
穏やかだけれど絶え間なく、波のように後悔が寄せてきた。
小川洋子 / ダイヴィング・プール「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
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こんな筈ではなかったと涙が火のように溢 れていた。
林芙美子 / 新版 放浪記
私は抱きしめた。 睦子は小さくて柔らかくて、こわれないように力をおさえなければならなかった。
山田太一「飛ぶ夢をしばらく見ない」に収録 amazon
コップの中身を一気に飲んで満足そうに息を吐く。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
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