熱海 駅のコンコースを通り、改札口を抜けると、目の前に温泉街らしい光景が広がった。軒を並べた土産物店。ホテルや旅館の派手な建物。駅前に数珠 繫 ぎになったタクシー。その前の歩道を、夏服姿の観光客たちが 忙しなく行き交っている。

（道頓堀橋からの眺め）ここから 眺めたら、街が水につかってるみたいやなァ

その一郭は古家とコンクリートの新築などが混在し、ところどころ渋谷へ歩いて十二、三分という場所ではないような二、三十年前の匂いを残していた。

谷間のような所にかたまった集落

三溪園に隣接する住宅地の北端には十四階建てのマンションが数棟建ち並び、新築にもかかわらずそのほとんどの部屋がふさがっていた。一棟に百近い住居が密集していたが、たいがいの住人は隣人の顔も知らず、それぞれの住居に人が住んでいるのを証明するのは、夜になって灯る部屋の明りだけであった。

からりとした上天気。眼もくらむような光った雪景色。

凍（い）てついた道を戞々（かつかつ）と踏んでゆく馬のひづめから、サッと砂まじりの粉雪を顔へもってくる。

まだ誰の足跡もついてない、無傷の白さがキラキラ水晶みたいに光ってたの。

積もっている雪の肌が軽石のようにざらつく

一面の雪の凍りつく音が地の底深く鳴っているような、厳しい夜景

自然が粉雪をあおりたてて、所きらわずたたきつけながら、のたうち回ってうめき叫ぶその物すごい気配（けはい）

霜が下りると野菜はぐっとおいしくなる。

（雪の様子）「白い薔薇の花弁が何枚も何枚も落ちてくる感じよ。」 「ポプラの種が下から舞い上がってくるみたい。」 「今日は小麦粉みたいな粉雪よ。この中を歩いたら、むせてしまいそう。」

道路の小砂利が塩を撒いたように霜柱に凍てついていた。

白いすだれが幾重にも垂れ下がって視界を鎖（とざ）す

都心の賑やかな通りの人波のなかへ身を投じた。ちょうど、海水浴場で水際に身を沈めて、海水に馴染もうとする人のように。

畑とも庭ともつかない地面

馬の背中のような丘

とにかく、春の勢いはすごい。これまではモノクロにくすんでいた画面に、一瞬で色がつくみたいだ。どんな特撮技術を使っても、この鮮やかな景色の変化は表現できないだろう。 　変化は景色だけじゃなく、においにも音にも表れる。冬のあいだは硬く冷たく流れる川が、草木が芽吹きはじめるのとほぼ同時に、さらさらと優しい音に変わる。水は澄みわたって、甘い香りがする。金色に輝く川底の砂に、透明なメダカの群の影が映っているのを発見し、俺は思わず声を上げてしまった。 　なんかこう、春はすべてにメリハリがつくって感じだ。繁ばあちゃんの大群に包囲されてるのが冬だとしたら、百人の直紀さんがバイクに乗って、山を駆けめぐってるのが春だ。張りがあって騒々しい。

ただ一枚の青畳を敷いたような田圃（たんぼ）