淡い黄昏が降りてくる。《…略…》通りをはさんだ反対側にある高いビルの窓が並んで、きれいに青に浮かぶのを見ていた。その中で動いている人々も、上下するエレベーターも、みんなしんと輝いて薄闇に溶けてゆきそうだった。

夕陽がビル群の向こうに落ちかけており、まるでこれからの私の将来を暗示しているような気がした。

太陽は向うの丘に隠れ、頂上に並んだ樹の間から、光線が 縞しま をなして 迸ほとばしった。空に残った雲だけ、まだ金色に光っていた。我々は 暫く光る雲に照されていた。

日は植物園の森の上に舂（うすず）いて

やっぱり一日にさよならするのはこの時間なんだな。すきまがあるもんね、息つぎみたいに静かに、何もかもが惜しくなってさ。

暮れなずむ道端にしゃがみ込んで、何やら遊んでいるらしい喜一と銀子の姿は、やがてとっぷり暮れてしまってからも、 闇 の奥でちらちら動いていた。

空が白み、雲が流れ、鳥が鳴き、新しい一日が腰を上げて、この惑星に住む人々の意識を拾い集め始める

朝が近づいてくる気配が世界中を満たす。光が空の青に溶けて、かすかな輝きが空気の層を白く照らす。

夕陽が葉を撫でるようにオレンジ色の匂いを振りまいている。

（夜更けの人通りのない道、腰に下げた鈴）生まれてからまだ一度も踏まなかった道。そして同時に、実に親しい思いを起こさせる道。――それはもう彼が限られた回数通り過ぎたことのあるいつもの道ではなかった。いつの頃から歩いているのか、喬（たかし）は自分がとことわの過ぎてゆく者であるのを今は感じた。 　そんな時朝鮮の鈴は、喬の心を顫（ふる）わせて鳴った。ある時は、喬の現身（うつせみ）は道の上に失われ鈴の音だけが町を過るかと思われた。