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唐突に貧血のように具合が悪くなった。天井の蛍光灯が、騒音のように眩しくなり、赤黒く霞み、周囲から猛烈な力で体を押し込められるような苦しさを感じた。目を閉じ、下を向いて、彼はそれが静まるのを待った。眼鏡を外し、手で痛いほど強く顔を擦って、左足を右足に 擦りつけるようにして踏ん張った。 一度目を開けた時、隣の席で携帯を 弄っていた女性が、体を 避け、城戸の様子を盗み見しているのがわかった。しかし、振り返る余裕はなく、彼は顔を押さえて掌に閉じ合わせた目を擦りつけながら、落ち着くまでしばらく 堪えているより外はなかった。 何かの発作ではないかと、彼は自分の体の反応に動揺した。 眩暈が少し治まると、ネクタイを 捥 ぎ取るように更に緩めて背もたれを倒した。そして、目を 瞑ったままゆっくり深呼吸をすると、ようやく不快が退いてゆくのを感じた。
平野啓一郎「ある男」に収録 ページ位置:35% 作品を確認(amazon)
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目まい
突然の体調不良
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前後の文章を含んだ引用
......、この日常の直中で、急に思い立ちさえすれば、「朝鮮人」を殺すことなどいつでも可能なはずだった。 城戸は、そのことを、初めて明瞭に、言葉にしながら考えたところで、唐突に貧血のように具合が悪くなった。天井の蛍光灯が、騒音のように眩しくなり、赤黒く霞み、周囲から猛烈な力で体を押し込められるような苦しさを感じた。目を閉じ、下を向いて、彼はそれが静まるのを待った。眼鏡を外し、手で痛いほど強く顔を擦って、左足を右足に擦りつけるようにして踏ん張った。 一度目を開けた時、隣の席で携帯を弄っていた女性が、体を避け、城戸の様子を盗み見しているのがわかった。しかし、振り返る余裕はなく、彼は顔を押さえて掌に閉じ合わせた目を擦りつけながら、落ち着くまでしばらく堪えているより外はなかった。 何かの発作ではないかと、彼は自分の体の反応に動揺した。 眩暈が少し治まると、ネクタイを捥ぎ取るように更に緩めて背もたれを倒した。そして、目を瞑ったままゆっくり深呼吸をすると、ようやく不快が退いてゆくのを感じた。 彼は、里枝が口にした「城戸先生は、いい人ですね、本当に。」という一言を思い出した。そして、何度かその言葉を、薬でも服用するように反芻した。 自分がスパイだとい......
単語の意味
具合が悪い(ぐあいがわるい)
霞(かすみ)
暈(かさ)
捥ぐ(もぐ)
蛍光(けいこう)
体(からだ)
背(せ)
手の平・掌(てのひら)
暫く・姑く・須臾(しばらく)
具合が悪い・・・かっこ悪く見られているだろうと思い、恥ずかしい。決まりが悪い。ばつが悪い。
霞・・・1.遠くにある山などの前に、帯状の煙りのようなものが見える現象。春の朝などによくある、遠くをはっきり見えなくさせる雲のようなもの。
2.目に白いものがかかったようになって、ものがぼんやりと見えること。翳み(かすみ)。
2.目に白いものがかかったようになって、ものがぼんやりと見えること。翳み(かすみ)。
暈・・・1.光の輪。ときどき太陽を囲うようにできるドーナツ形の光。また、その現象。ハロ。
2.疲れたときに目の周りに出てくる黒いあざのようなもの。「暈」で「くま」とも読む。
2.疲れたときに目の周りに出てくる黒いあざのようなもの。「暈」で「くま」とも読む。
捥ぐ・・・引っぱったりねじったりして、ちぎる取る。もぎる。
蛍光・・・1.蛍の光。ほたる火。
2.(物理学)ルミネセンスの一種。ある物体に光やエックス線を当てたとき、その物体が別の光を出す現象。また、その光。
2.(物理学)ルミネセンスの一種。ある物体に光やエックス線を当てたとき、その物体が別の光を出す現象。また、その光。
体・・・頭・胴・手足など、肉体全体をまとめていう言葉。頭からつま先までの肉体の全部。身体。体躯。五体。健康。体力。
手の平・掌・・・手首から先の、物を握ったときに内側になる面。掌(たなごころ)。
暫く・姑く・須臾・・・1.長いと感じるほどではないが、すぐともいえないほどの時間。ちょっとの間。一時的。
2.ちょっと待った!
2.ちょっと待った!
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正面の席が揺れ出すのを感じた。またか。舌打ちが出る。座席だけではない、情景すべてがぐらぐらと震え、輪郭が崩れた。周囲が振動しているのではなくて、自分が眩暈を感じているのだ。
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
自分を支える現実がゆらぐような、あの めまい
山田太一「飛ぶ夢をしばらく見ない」に収録 amazon
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酒と血とを、交ぜたような、どろんとした眼
吉川英治 / 無宿人国記
はじまりの景色、その時の私にはなにもかもが妙にくっきりと明るく見えた。 全てのことが、この手のひらで押せば大きく動くような、そんな気さえした。なにもかも、どんな細かいことも、いっせいに未来に向かって開いているようだった。
吉本ばなな / うたかた「うたかた/サンクチュアリ」に収録 amazon
口腔の粘膜いっぱいに粉っぽくざらざらしたとどこおりを感じながら、すでに冷たく汗ばんでいる馬鈴薯を食べつづけた
大江健三郎 / 芽むしり仔撃ち amazon
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からだの線をたもちたいひとは、こってりしたソース類は口にしない。肉や魚も炭焼きのさっぱりしたのをたべる。パンや、スパゲティのようなめん類は太るといって心配する。
石井 好子「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる (河出文庫)」に収録 amazon
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