くるたんびに、猫の目みたよに機嫌がかわる

自分の神経の強張りに、手を焼いている

すいません、この年になると、涙もろくなってしまって──。

心が不安定に崩れている

我儘っ子らしい、感情家で勝気なところがある

風邪がいつまでも体にへばりついて、抜けようとしない

体の具合が、袋をかぶっている様にはっきりしない

百尺もあるところを墜落したように頭が痺れた。再び渾沌が来た。悪寒はやんだ代りに高い熱と痙攣（けいれん）が起った。

突然樹木が倒れるように、病に倒れる

悪寒と高熱が交互にやってきた。部屋はそのたびに広がったり縮んだりした。毛布や下着が汗でぐっしょりと濡れ、それが冷えるとしめあげるような寒さにかわった。

（においつわり、吐き気を催すにおい）バターと脂と卵と豚のにおいが、家中にこもってて息ができないわ《…略…》朝目が覚めたら、そのすさまじいにおいが身体中に染み込んできたわ。口も肺も胃もひっかき回されて、内臓がぐるぐる渦を巻いてた《…略…》どうしてうちには、こんなににおいがあふれてるの。なんでもかんでも気持ち悪いにおいを振りまくの《…略…》あらゆるものがにおうの。一つのにおいがアメーバみたいにどろっと広がって、別のにおいがそれを包み込んで膨張して、また別のにおいがそれに溶けていって、……もうきりがないわ《…略…》においがどんなに恐ろしいものか分る？　逃げられないのよ。容赦なくどんどんわたしを犯しにくるの。においのない場所へ行きたい。病院の無菌室みたいな所。そこで内臓を全部引っ張り出して、つるつるになるまで真水で洗い流すの

その小さなものはへその緒から滋養を吸い、刻一刻大きさを増していく。生ぬるい暗闇からの脱却を求め、彼女の子宮の壁を蹴っている。それは光と自由を欲している。

私のヒト絨毛性性腺刺激ホルモン（妊娠初期に分泌され、黄体が維持されるのを助ける）は、私の子宮に対して終始同じ態度をとり続けるだろう。彼らは黄体を支え、月経の到来を阻止し、胎盤を形成しつつある。私は妊娠している。

（エコー写真）看護婦さんがやってきて、歯磨き粉よりもずっと大きいチューブから、ゲル状の透明な薬を絞り出してお腹に塗ってくれるの。その時の感触がとても好き。ゼラチンみたいに澄みきって滑らかな物質が、肌を撫でてくれるの。不思議な気持ちになれるわ《…略…》今度はお医者さんが、超音波装置と黒い管でつながったトランシーバーみたいな箱を、わたしのお腹に押しつけるの。さっき塗った薬のおかげで、それはとてもぴったりわたしに密着してくるわ。その時、モニターにわたしの身体の中が映し出されるの

親が子を生むように思っているが、親なんてものは、ほんの仮の宿だよ。

私の血脈だけが、キコンカコン歌時計のように活発に動いていたわ

よほど酔っ払ったのか、負ぶわれたほうは壊れた操り人形のようにフラフラとしていた。

酔っているあいだの昂奮と誇張が不自然で大きいだけに酔いざめの味気なさは湿った砂を噛みしめるような気もちなのである。

焼酎くさい声

天井を見つめていた。　煙草の脂で黄ばんでいる。いや、視界そのものが黄色味掛かっているのかもしれない。@略@黄色いレンズを透かして物を見ているような感覚はまだ続いていたし

天地を創造した神さまにも匹敵するくらいのエネルギーを使いました。

干された雑巾のようにくたびれる

重病人のようにベッドでぐったりして

つわりはずぶ濡れのブラウスのように、じっとり彼女に貼りついている。@略@彼女は今、神経もホルモンも感情もバラバラになっているのだ。

彼女の神経的な病気は少しも良くなっていないように思う。彼女の病気は常に、海に浮かんだ海藻のように波打っている。決して穏やかな砂地に舞い降りることはない。

笑っている本人の内側で心だけが、貧しくなる。どんどん虫食いに侵されていってしまう。

ずっと自転車を押しつづけて、横腹のあたりがだるかった。

病がぬぐうように本復する

最後に爆発させるために力を温存している

酒を飲むと、何もやってないにもかかわらず、達成感を得られる

赤い臼（うす）のような頭をした漁夫

命と取り換えっこのつもりでやります

窓を開けて新鮮な空気を入れるみたいにリフレッシュする

濃かった霧が少しずつ薄れていくかのようにわかってくる。

五分ほど黙った。二人には思い思いのことが浮んだ。