部屋は一種不可解な沈黙に覆われていた。広い屋敷に入ると時折これに似た沈黙に出会うことがある。広さに比べてそこに含まれる人間の数が少なすぎることから生ずる沈黙だ。しかしこの部屋を支配している沈黙の質はそれともまた違っていた。沈黙はいやに重く、どことなく押しつけがましかった。僕は昔そのような沈黙をどこかで経験した覚えがあった。《…略…》不治の病人をとりまく沈黙だった。避けがたい死の予感をはらんだ沈黙だ。空気がどことなくほこりっぽく、意味ありげだった。
村上 春樹「羊をめぐる冒険」に収録 ページ位置:32% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
黙る・沈黙
室内(空間)が静か
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......とテーブルの上にのびて、三分の一ばかり減った煙草をもみ消した。グラスの中で氷が溶け、透明な氷がグレープ・ジュースに混っていくのが見えた。不均一な混り方だった。 部屋は一種不可解な沈黙に覆われていた。広い屋敷に入ると時折これに似た沈黙に出会うことがある。広さに比べてそこに含まれる人間の数が少なすぎることから生ずる沈黙だ。しかしこの部屋を支配している沈黙の質はそれともまた違っていた。沈黙はいやに重く、どことなく押しつけがましかった。僕は昔そのような沈黙をどこかで経験した覚えがあった。しかしそれが何であったのかを思い出すまでに少し時間がかかった。僕は古いアルバムのページを繰るように記憶をたぐり、それを思い出した。不治の病人をとりまく沈黙だった。避けがたい死の予感をはらんだ沈黙だ。空気がどことなくほこりっぽく、意味ありげだった。「みんな死ぬ」と男は僕を見据えたまま静かに言った。まるで僕の心の動きを完全に把握していたようなしゃべり方だった。「誰だっていつかは死ぬんだ」 それだけ言ってしま......
単語の意味
孕む・妊む(はらむ)
何処とも無く(どこともなく)
何処とも無く・・・はっきりとした場所は言えないが、なんとなく。どことなく。
ここに意味を表示
黙る・沈黙の表現・描写・類語(声・口調のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(深夜の洗面台の前で二人きりになって思い出話)思い出話が終わると、もうお互いに喋る言葉が見つからなかった。二人の間をこぼれ落ちてゆく時間の音が、水の音とすり変わって、夜の果てまで細く連なっていった。
小川洋子 / ダイヴィング・プール「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
奥行きの全くない、ただの板切れでも耳に押しつけているような沈黙
黒井 千次 / 群棲 amazon
このカテゴリを全部見る
室内(空間)が静かの表現・描写・類語(音の響きのカテゴリ)の一覧 ランダム5
診察室に入ると耳の奥がじんと震えるみたいに静かで、カルテをめくる音とか、ピンセットで清浄綿をつまむ音とか、ケースから注射器を取り出す音とか、そんなささやかな音しか聞こえないわ。
小川 洋子「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
「声・口調」カテゴリからランダム5
私の部屋でチーズケーキを食べながら、コーヒーを飲みながら、気楽な感じで言った。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
「音の響き」カテゴリからランダム5
外部が騒々 しいだけに部屋の中はなおさらひっそりと思われた。
有島武郎 / 或る女
同じカテゴリの表現一覧
声・口調 の表現の一覧
音の響き の表現の一覧
感情表現 大カテゴリ
感覚表現 大カテゴリ
人物表現 大カテゴリ