TOP > 人物表現 > 記憶 > 認知症・アルツハイマー病
TOP > 暮らしの表現 > 健康・体調・病気 > 寝たきり
濡れたタオルでまず顔を拭く。さえは目を細め唇を突き出す。それは表情と呼べるものではなく、ただの筋肉の変形に過ぎない。さえはもう、わたしに信号を送ることを忘れている。彼女は短い間にいろいろなものを忘れていった。例えば時間、名前、食欲、苦しみ、発語。その間に肉体は萎え、胎児のように縮んでゆく。彼女はどこかへ戻ろうとしている。羊水の感触のように、思い描くことのできない確かな記憶。海のように重い時の一掬いが自分を包んでいた記憶。そんな記憶の中に、彼女は足を踏み入れようとしている。そして不必要なものを置き去りにしてゆく。例えば祈り、ことば、涙、わたし。
小川洋子 / 揚羽蝶が壊れる時「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 ページ位置:1% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
認知症・アルツハイマー病
寝たきり
介護
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......ついた音を残して剥れる。それと同時に濃密な臭気が立ち上がる。粘ついた空気が喉に絡み付く。わたしは汚物を吸い込んで重くなったおしめを丸め、専用のバケツに捨てる。 濡れたタオルでまず顔を拭く。さえは目を細め唇を突き出す。それは表情と呼べるものではなく、ただの筋肉の変形に過ぎない。さえはもう、わたしに信号を送ることを忘れている。彼女は短い間にいろいろなものを忘れていった。例えば時間、名前、食欲、苦しみ、発語。その間に肉体は萎え、胎児のように縮んでゆく。彼女はどこかへ戻ろうとしている。羊水の感触のように、思い描くことのできない確かな記憶。海のように重い時の一掬いが自分を包んでいた記憶。そんな記憶の中に、彼女は足を踏み入れようとしている。そして不必要なものを置き去りにしてゆく。例えば祈り、ことば、涙、わたし。 口のまわりの産毛に食べ滓の繊維が絡まっている。少し強くこすると、産毛がポロポロと落ちていく。筋の浮き出た首では、わたしの手の動きに合わせて皮膚が縒れる。タオル......
単語の意味
肉体(にくたい)
足・脚・肢(あし)
肉体・・・肉から構成されている体。生きている人間の体。生身の体。
足・脚・肢・・・1.動物の胴体の下から左右に分かれて伸びている部分で、歩いたり体を支えるのに用いる部位。とくに、足首から下の部分をさすこともある。
2.台を支える棒状の部分。物の本体を支える、突き出た部分。また、地面に接する部分や、物の下や末端部分。「テーブルの足」
3.歩くこと。走ること。また、その能力。「足が速い選手」
4.行くこと。また、来ること。また、そうするための手段や乗り物。「客の足がとだえる」「足の便がいい」
5. 餅(もち)などの粘り。こし。
6.損失。欠損。借金。また、旅費。
7.その他、足の形や動きから連想されできた表現として、
・食べ物の腐りぐあいや、商品の売れ行き。「足がはやい」
・(脚)漢字を構成する部分で、上下の組み合わせからなる漢字の下側の部分。「照」の「灬(れっか)」、「志」の「心(したごころ)」など。
・雨や雲、風などの動くようす。「細い雨の足」
・(足)過去の相場の動きぐあい。
2.台を支える棒状の部分。物の本体を支える、突き出た部分。また、地面に接する部分や、物の下や末端部分。「テーブルの足」
3.歩くこと。走ること。また、その能力。「足が速い選手」
4.行くこと。また、来ること。また、そうするための手段や乗り物。「客の足がとだえる」「足の便がいい」
5. 餅(もち)などの粘り。こし。
6.損失。欠損。借金。また、旅費。
7.その他、足の形や動きから連想されできた表現として、
・食べ物の腐りぐあいや、商品の売れ行き。「足がはやい」
・(脚)漢字を構成する部分で、上下の組み合わせからなる漢字の下側の部分。「照」の「灬(れっか)」、「志」の「心(したごころ)」など。
・雨や雲、風などの動くようす。「細い雨の足」
・(足)過去の相場の動きぐあい。
ここに意味を表示
認知症・アルツハイマー病の表現・描写・類語(記憶のカテゴリ)の一覧 ランダム5
最後の最後の時には、みなさん人間として一番純粋な部分だけを残して、あとは空白になってしまうんですね。性別とか個性とか社会的地位とか、他人から自分を区別する要素なんて無意味になるんですよ。
小川洋子 / 揚羽蝶が壊れる時「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
寝たきりの表現・描写・類語(健康・体調・病気のカテゴリ)の一覧 ランダム5
このカテゴリを全部見る
介護の表現・描写・類語(健康・体調・病気のカテゴリ)の一覧 ランダム5
このカテゴリを全部見る
「記憶」カテゴリからランダム5
視界を失った。 疲れてる。そう思った時、ふっと暗い場所に心が引きずり込まれた。 納屋の中だった。小さな体の自分が見えた。震えながら一人、膝を抱えていた。
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
「昔のこと、思い出したりもされないんですか?」 「人間関係も断って、その土地から離れたら、自然と忘れていきますよ。──いや、ただ忘れようとしても、忘れられないですよ、嫌な過去がある人は。だから、他人の過去で上書きするんですよ。消せないなら、わからなくなるまで、上から書くんです。」
平野啓一郎「ある男」に収録 amazon
(言いたいことを忘れる)自分がどんな文脈で話をしようとしていたかを、一瞬見失ってしまうのだ。強い風が突然吹いて、演奏中の譜面を吹き飛ばしてしまうみたいに。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
(初恋を思い出す)彼の心はことあるごとに、二十年前の午後の教室に引き戻された。まるで波打ち際に立って、強い退き波に足をさらわれている人のように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
「健康・体調・病気」カテゴリからランダム5
病は苦悩の多く強いものではなかったが、美しい花の日に瓶中(へいちゅう)に萎れゆくがごとく、清らかな瓜(うり)の筐裏(きょうり)に護られながらようやく玉の艶を失って行くように、次第次第衰え弱った。
幸田 露伴 / 連環記 amazon
同じカテゴリの表現一覧
記憶 の表現の一覧
健康・体調・病気 の表現の一覧
人物表現 大カテゴリ