夜も残り少なになる頃

夜は 殆ほと んど明け放れていた。

瓦斯ガス（燈）の光が段々に間が抜けて来た。

いつの間にか窓越しの空がかすかに白くなった。

鏡面を洗い澄ましたような初秋の太陽が昇った

カラスは電柱のてっぺんに立ってクレジット・カードのようにつるつるとした翼をぱたぱたと上下に振っていた。

（カラスの）醜い 嗄しわがれた声

人を恐れない鴉（からす）の群れ

大きなカラスが出し抜けにベランダにやってきて、手すりにとまり、よく通る声で何度か短く鳴いた。青豆とカラスはしばらくのあいだ、ガラス窓越しにお互いの様子を観察していた。カラスは顔の横についた大きなきらきらした目を動かしながら、部屋の中の青豆の動きをうかがっていた。それからカラスはやってきたときと同じように、唐突に羽を広げてどこかに飛び立っていった。見るべきものは見たという感じで。《…略…》そのカラスがリトル・ピープルのまわしものでないことを祈った。

カラスの声が勇ましい

小鳥がせせらぎと合唱しているように鳴く

小鳥たちの声が新しい風、新しい雪のようにおそう

名前の知らない小鳥だが、名前を知りたくなるほどの美しい鳴き声

山鳩 がベエトヴェンの交響曲の主題を二小節鳴いた。

もう杉の森に、鴉が、があがあと騒いでいる。

九時をすぎていた。夜の暗幕が町中に落ちていて、それは雪子の中を漂う不安と似ていた。

夕暮になるとこの医学部の建物や病院の窓々にはうるんだ灯がともり、港にはいる満艦飾の船のように見えた

朝日が昇り、砂漠は蜂蜜色に輝き始める。

六時を過ぎると街は 鈍色にびいろ の夜に変っていた。

すこしずつ、気温が下がっていく。すこしずつ、光が褪せていく。

樹には大きな烏たちが羽ばたきながら 嗄れた声で鳴き、その声と蛙の声とが一緒になって、暗い合唱をくりひろげていた。

干潟のほの白い砂の上に、黒豆を零したようなのは、烏の群が下りているのであろうか。

電線の雀みたいにプールの縁に並ぶ

知らない鳥が複雑な音階で鳴く

白鳥たちはひとかたまりの花びらか雲のようになって、長い旅をしてきた。