玉子１コで作った小さいオムレツ

外側は焦げ目の付かない程度に焼けて、中は柔らかくまだ湯気の立っているオムレツ

オムレツには実にさまざまな焼き方があるが、このオムレツは表面だけが少し固く、中はグズグズというスタイル

玉子の白味を切るようによくかきまぜないので、黄味と白味がわかれていて、焼き上りが白、黄、まだらであった。フライパンの中でかき玉のようにかきまぜないのでかたかったし、出来たてでなかったから、つめたくて舌ざわりが悪かった。オムレツなんてものは誰にだって出来る、安くてケチな料理だと、コックさんがバカにしながらいい加減に作ったような感じがした。

オムレツはうちで出来たてをたべるべきだ。レストランでさめきったオムレツに真赤なケチャップがかかっているのなど、むしろ食べないほうがまし。おいしく出来上ったオムレツには、ケチャップもソースもおしょう油もつけないほうが、おいしい筈である。

熱湯を注ぐ手つきは、理科の実験のように慎重だった。

電動歯ブラシで歯を磨いた。充電した電池が切れてしまうくらい、丁寧に磨いた。

老朽のワゴン車を、まるで我が身をいたわるように運転しながら

壊れ物を扱うように慎重に、箱を取り出した。

こわれものを扱うようにそっと

好みのスクランブルエッグにするために、レシピ以上にバターを使う。味を濃く、深めるのだ。

白身と黄身のまざったやさしい色。ふわふわっとした外見、とろとろっとした舌ざわり。

社長は、「オムレツは中が柔らかくふっくらと、表面はこげめのつかぬクリーム色にまとめることが最高」といわれた

スクランブルエッグは、強火で作るオムレツとは反対に、うんととろ火でゆっくりゆっくり仕上げる。フライパンのバターと混ざり合って、トロリとしてきたら火からおろす。

こつんと小鉢に割って、醤油を落とす。懐かしい香り。紫に透き通っている。群雲の感じにさっと混ぜ、ご飯にかけてすすり込む。二口目でおいしさが湧き上がってくる。二口目でおいしさが湧きあがってきた。地卵のコクに醤油の旨みが重なり、ごはんの甘みが増している。きりっと濃い味が紀州醤油の底力のようで、箸先で醤油だけなめるとほのかに甘み。

（復讐を誓う）コバヤシは復讐を思いついて敢然と立ち上がった。彼の髪の毛は逆立ち、悟りを開いた人間の 潔 さがうかがわれた。

仏前に香花（こうげ）を供（そな）えるような恭（うやうや）しい手つき

眉の辺りに決意の色を浮かべる

鉄石よりも硬い決意

パン屋襲撃の話を妻に聞かせたことが正しい選択であったのかどうか、僕にはいまもって確信が持てない。たぶんそれは正しいとか正しくないとかいう基準では推しはかることのできない問題だったのだろう。つまり世の中には正しい結果をもたらす正しくない選択もあるし、正しくない結果をもたらす正しい選択もあるということだ。このような不条理性──と言って構わないと思う──を回避するには、 我々は実際には何ひとつとして選択してはいないのだ という立場をとる必要があるし、大体において僕はそんな風に考えて暮している。起ったことはもう起ったことだし、起っていないことはまだ起っていないことなのだ。