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(失恋の喪失感を嫌悪感で埋めて癒やす)十和子は 虫酸 が走るような嫌悪感に耐えながらも、途中で電話を切ることはしなかった。無感覚のなかに死人のように溺れきっているよりは、たとえ嫌悪感であっても感じている方が救われる。嫌悪を感じるだけのエネルギーが自分にまだ残っているのが意外だった。それだけでなくあのときの十和子は、独りでうずくまっていた光も風も届かない 虚ろな 陥穽 の絶壁を、陣治を嫌悪するというそのことによって知らないうちに一歩また一歩と這い登っていった、そんなふうに今は思えるのだ。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 ページ位置:3% 作品を確認(amazon)
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喪失感(大切なものを失う)
失恋・恋人と別れる
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前後の文章を含んだ引用
......ん死んだん、北原さんよりまだ若いときやったんやなあ〉 他の女たちが陣治をどんなふうに罵倒し、拒絶し、無視し、あるいは退屈しのぎの慰みものにしていたかは不明だが、十和子は虫酸が走るような嫌悪感に耐えながらも、途中で電話を切ることはしなかった。無感覚のなかに死人のように溺れきっているよりは、たとえ嫌悪感であっても感じている方が救われる。嫌悪を感じるだけのエネルギーが自分にまだ残っているのが意外だった。それだけでなくあのときの十和子は、独りでうずくまっていた光も風も届かない虚ろな陥穽の絶壁を、陣治を嫌悪するというそのことによって知らないうちに一歩また一歩と這い登っていった、そんなふうに今は思えるのだ。 やがて陣治はしばしば、十和子の退社時に通りの角で待っているようになった。信じられないことに、ときには小さな花束をこれ見よがしに手にして。あるいは夕方から雨が降......
単語の意味
意外(いがい)
虚ろ・空ろ・洞ろ(うつろ)
溺れる(おぼれる)
意外・・・予想と現実がとても違っていること。
虚ろ・空ろ・洞ろ・・・1.空洞(くうどう)。空っぽ。中身が何もないこと。
2.心が空っぽになり、生気がないさま。表情がボーっとして気持ちがないさま。
2.心が空っぽになり、生気がないさま。表情がボーっとして気持ちがないさま。
溺れる・・・1.水の中で泳げなくて、苦しくてもがく。
2.心を奪われる。ひどく夢中になる。「ギャンブルに溺れる」
2.心を奪われる。ひどく夢中になる。「ギャンブルに溺れる」
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喪失感(大切なものを失う)の表現・描写・類語(悲しみのカテゴリ)の一覧 ランダム5
(喪失感をまぎらすためにジョギングを始めた私と亡くなった彼女のセーラー服を着て過ごす柊という男)彼のセーラー服は私のジョギングだ。全く同じ役割なのだ。私は彼ほど変わり者でないので、ジョギングで充分だっただけのことだと思う。彼はそのくらいでは全くインパクトに欠けて自分を支えるにはもの足りないのでバリエーションとしてセーラー服を選んだ。どちらもしぼんだ心にはりを持たせる手段にすぎない。気をまぎらわせて時間をかせいでいるのだ。 私も柊もこの二カ月で、今までしたことのない表情をするようになった。それは失ってしまったものを考えまいと戦う表情だった。ふっと思い出して突然に孤独が押してくる闇の中に立っていると知らず知らずのうちにそういう顔になってしまうのだ。
吉本 ばなな / ムーンライト・シャドウ「キッチン (角川文庫)」に収録 amazon
淋しさというのは、いつの間にか、気がつかないうちに人の心にしみてくる。ふと目覚めてしまった夜明けに、窓いちめん映るあの青のようなものだ。そういう日は真昼、いくら晴れても、星がどんなにたくさん出ても、心のどこかにあのしんと澄んだ青が残っている。ずっと二人で暮らした母が急に生活からいなくなって、私はまっ青に染まっていたのだと思う。
吉本ばなな / うたかた「うたかた/サンクチュアリ」に収録 amazon
私はちょっと泣いていた。もしここが海辺でなかったら、その不在の強烈さはこんなに強く襲ってこなかっただろう。
吉本 ばなな「N・P (角川文庫)」に収録 amazon
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失恋・恋人と別れるの表現・描写・類語(恋愛のカテゴリ)の一覧 ランダム5
あの人はどうしているかしら、切れ掛った鎖をそっと掴 もうとしたけれども
林芙美子 / 新版 放浪記
「恋は終わるんだよ。いつか必ず。終わらない恋なんか、あり得ない」
小池真理子「愛するということ (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
(恋人と付き合い始めたが期待外れにときめかない)邦彦との関係に対して、浮き立つものを感じられなくなっていた。 期待に胸を膨らませて観に行った映画が、タイトルが映し出された時こそ感動が押し寄せてきたものの、上映時間が進むにつれ、「あれ?」と退屈を覚えずにいられなくなり、「いや、これから面白くなるはずだ」「だって、いい監督だもの」と自分に言い聞かせ、挽回を期待し、けれどそれでも気に入らない点ばかりが増していくような感覚だ。
伊坂 幸太郎 / アイネクライネナハトムジーク amazon
(好きだった元カレのことを)あれこれとたずねられて胸のなかにまるで映画のシーンのように黒崎の立ち姿や表情が浮かび上がってくる。その瞬間の甘苦い震えが十和子は嫌ではなかった。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
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「悲しみ」カテゴリからランダム5
どの人間も、俺よりはましな生活がありそうだが、俺と同じようにかなしそうに見える。
松本 清張 / 真贋の森「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon
「生と死」カテゴリからランダム5
ついに肉体は無感覚で終わりました。
梶井基次郎 / Kの昇天
どうせ自分自身は電子か何かになって、箒星 のお先走りでも承 るつもりでいたし
夢野久作 / ドグラ・マグラ
家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる。
吉本 ばなな / キッチン「キッチン (角川文庫)」に収録 amazon
「恋愛」カテゴリからランダム5
(専業主婦、子なし)今の自分の生活は、島流しと実は大差ないのではないか。こんな継ぎ目のないような生活をしていると、時間だけはたっぷりあるので、ついそんなしょうもないことを考えてしまう。果実のなる木があり、動物たちと好きなだけたわむれる時間があり、島は島でも楽園や極楽の類には違いないが、それでもたまに、無性に自分が元いたところが恋しくなってしまうのである。結婚したばかりの頃は、このままでは自分が駄目になると、島からの脱出をしばしば本気で考えもした。が、すぐに果実の奪い合いや、他人とのいざこざを思い出し、結局はこの極楽を捨てるほどの理由も見つからず、自分がどこか切り離された人間であるかのように感じながら、こうして今もふわふわ極楽の住人をしてしまっている。
本谷 有希子 / 異類婚姻譚 amazon
(夫婦の愛)結婚して苔に湧く水のような愛情を、僕達夫婦は言わず語らず感じあっていた
林 芙美子 / 魚の序文「風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)」に収録 amazon
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