暗い天空の水の底が割れたような勢いで、大雨が降り出す

生易しい雨ではなかった。雨が水のカーテンになって運動公園を覆い隠していた。ポプラ並木も野球場のスコアーボードもサッカー場の芝生も、雨の色に染まって霞んでいた。地面には一面、大粒のしぶきが噴水のように弾けていた。

ざあざあと降りしきる雨の中に、荒海の潮騒（しおざい）のような物すごい響きが何か変事でもわいて起こりそうに聞こえていた。

雨が土砂（どしゃ）降りだ。いい気味だ。もっと降れ、もっと降れ、花がみんな散ってしまうといい。

（ハワイで、）本格的なスコールになった。この調子であと一時間も降り続ければ島ごと南極まで押し流されてしまうんじゃないかという気がするくらい激しい雨だった。

森のような茂み

どこか静かだった。葉を揺らす風も鳥の声も俺の息づかいも、森を形づくる何百年ぶんもの年輪に吸いこまれていくみたいだ。

巨大な苔むした木々が鬱蒼（うっそう）と茂る

吹雪の夜のこういう松林の負傷の青は、車の前燈に染め出されると、稲妻のなかの女の裸体のように、実になまなましかった。

林の中で時折ばたばたという鳥の羽ばたきのような音が聞こえた。部分的に拡大されたような妙に鮮明な音だった。

（バラ園）薔薇以外の植物を探すのが困難なほど、いっさいが薔薇で埋め尽くされている。「カクテル」「パレード」「マリア・カラス」など品種は様々。鉢植えのものもあれば花壇に茂るもの、壁や支柱に絡みながら伸びるものなど、形もいろいろだ。しかも五月下旬のこの季節は薔薇の開花の時季。いままさに咲き誇らんとする色とりどりの薔薇がそこら中に溢れて、あたりは濃厚な香りと色彩に満たされている。それは息苦しささえ感じるほどの光景である。

小さく小さくなっていまはもう一つの緑（みどり）いろの貝（かい）ぼたんのように見える森

死火山の群れが、駱駝（らくだ）の瘤（こぶ）のような輪郭を描く

遠くの中央アルプスらしい山脈が青空に幽かに爪でつけたような線を引いていた

鳥の背骨のようにある山脈

フロントガラスに転がる水滴が、夏の丸い虫そっくりだと思う。背中の球面に森全体を映す小さな虫そっくりだと思う。

雨が、小屋をつつみこんで宙へ押し上げるような勢いで降る

雨の匂いが世界を包んでいる。

神去山の山頂から、白い雲がいっせいになだれ落ちていた。いや、雲じゃなく霧だ。すごく濃い霧が波のように斜面を下り、瞬く間に集落まで押し寄せていく。

通り雨は、終りかたも急激でした。ふたたび草原はほの白くなり、小禽ことりたちが夢からさめたように騒ぎだし