部屋（へや）は息気（いき）苦しいほどしんとなった。

敷いて砂利が音を吸収するみたいに静か

（小さなバーの）店内には客の姿は殆んどなく、しんとした空気が長い時を経た木材や漆喰によくなじんでいた。何十年か前に流行ったようなジャズ・ピアノ・トリオの音楽が天井のスピーカーから小さく流れ、グラスの触れあう音や氷を割る音がときおりそれに混じった。

出ようか、静かすぎて、深刻な気持ちになってしまう。」 「声がすいこまれると、何を話してもたいへんに大事なこと言ってるようね

その間わたしたちは一言も口をきかなかった。テレビの音だけが、静けさの底を漂っていた。

（元日の夜の東京駅は）半分扉をおろしたようながらんとした静けさである。

玉の井停車場の跡が雑草に蔽われて、こなたから見ると城址（しろあと）のような趣をなしている。

景色を掻き消すような勢いで、目の前を列車は走り抜ける。轟々と流れていく。

汽車はだんだんゆるやかになって、まもなくプラットホームの一列（れつ）の電燈（でんとう）が、うつくしく規則（きそく）正しくあらわれ、それがだんだん大きくなってひろがって、二人はちょうど白鳥停車場（ていしゃじょう）の、大きな時計（とけい）の前に来てとまりました。

改札口からあふれてくる人の波が彼の眼の前でどっと散りみだれた。瓢吉の眼には波がしらのような顔の渦が勢いよく彼に向って殺到してくるような気がした。

いかにも蕎麦屋らしい風格を残している

夕方になると、世俗の一切を集めて茶碗のカチカチと云う音が階下から聞えて来る。

（パリのブラッスリー）五人或は八人ずつの食卓を仕切る胸ほどの低い靠（もた）れ框（がまち）で区切られている。凡（あら）ゆる人間の姿態と、あらゆる色彩の閃きと、また凡ゆる国籍の違った言葉の抑揚とが、框の区切りの中にぎっしり詰っている。出どころの判らない匂（にお）いと笑いと唄（うた）とを引き切るように掻（か）き分けて、物売りと、分別顔のギャルソンが皿を運んだり斡旋（あっせん）したりしている。

古くて安い、サービスと清潔さの不足した五階建てのビジネスホテル

街のサ店

コンサートが終わった。ほのかに酔っているような、しあわせな心地だった。

耳元でぐるぐる捩れながら吹き過ぎていく風の音

手が震える。必死にイアフォンのコードを引っ張り耳に突っ込む。麻薬中毒がドラッグを求める姿と似ていた。不安感が自分を押し潰す前に、クスリを投与しなくてはいけない。クスリは耳から注入する。ウォークマンの再生ボタンを押した。 　病院の名は、「ビートルズ」だ。この場合の薬剤師はきっと、「ジョージ・ハリスン」で、薬の名前は、「HERE COMES THE SUN」だった。 　ボリュームを上げ目を閉じ、じっと聴く。「It's All Right」と繰り返される。豊田はそれを自分の中で何度も繰り返した。「大丈夫だ。大丈夫だ。It's All Right」と繰り返し、不安感を取り除いていく。二回同じ曲を聴く。

激しい河の流れや虫の音が、地の底からわき立つようだ。

パチンコ屋さんの音楽のリズムに足の歩調が合いそうになる