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(患者は)自分の小便や糞も始末できぬほど苦しんでいました。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 ページ位置:27% 作品を確認(amazon)
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患者・病人・けが人 苦しむ
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前後の文章を含んだ引用
......なおすとベッドの上に坐りなおし、表紙のちぎれた小さな本を拝むように眼の高さまでもっていった。「お釈迦さまはある日、……一人の弟子をお見舞になりました……。弟子は自分の小便や糞も始末できぬほど苦しんでいました。……お釈迦さまは……先生、これはなんという字ですと」「ネンゴロじゃろ。そりゃ子供の本だねえ」「はい。むこうのベッドのお人が貸してくれよりましてな。ネンゴロに見舞......
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(入院中の爺さんをお見舞いに来て爺さんに怒鳴られて)老婦人は顔を伏せてちぢこまっているが、別にしょんぼりしている様子でもない。四十年も五十年もこの調子でどなりつけられてきて、何も感じなくなっているのだろう。《…略…》 (婆さんが言う)「すみませんねえ。うるさい、きたない年寄りで……」 テーブルの下の棚から、やっと「突き匙」が出てきたときには、吉田老は怒り過ぎたのか、いささかぐったりとしていた。姿勢をしゃんと正さず、半分起きた状態で果物を口に運ぶために、喉仏から鎖骨のあたりに果汁がぼたぼたこぼれ落ちる。婆さんはそれを見て、またしきりに〝きたない〟〝きたない〟と繰り返すのだった。 最初のうち、おれはこの老夫婦の会話をほほえましく聞いていたのだ。昔ながらの封建的だが駄々っ子のような亭主と忍従型の老妻とのやりとりとして。 誤算だった。 婆さんの顔は、押さえきれない喜びに輝いていた。 婆さんは、いまやじっくりと復讐を楽しんでいるのだった。愚鈍を装って、傲慢な夫の神経に、一本一本細い針を突き立てている。ののしられ、婢(はしため)あつかいされ続けたこの半世紀の間、婆さんはじっとこの日を待ち続けて耐えてきたのだろう。いまや、吉田老に残された武器は、どなり慣れた口だけだ。それも所詮は空砲だ。婆さんはいま、案山子の正体を知ったカラスになって、じわじわと一本足の吉田老に近づいていくのだった。
中島 らも / 今夜、すベてのバーで amazon関連カテ復讐・仕返し・見返す患者・病人・けが人夫婦
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