体の中に真っ赤な夕焼けを感じる

夕焼けがビルを染めている。

夕焼けが始まり、空が朱と金に染まる

周りの景色が赤っぽくなる

墨を混ぜたような重苦しい夕焼け

見はらしとしては素晴しいものだったが、どれだけ眺めていても楽しい気分にはなれなかった。全てがよそよそしく、そしてどこかしら異教的だった。

それは彼の知っている町の、思いがけない瞰下景（かんかけい）であった。彼はかすかな旅情らしいものが、濃くあたりに漂っているあれちのぎくの匂いに混じって、自分の心を染めているのを感じた。

都心から急激に伸びた住宅化の波は僅かながらもこの地に及んだ。東京オリンピックの前後だ。山から見下ろすとまるで豊かな海のようにも見えた一面の桑畑はブルドーザーに黒く押し潰され、駅を中心とした平板な街並が少しずつ形作られていった。

眼下に広がる街の夜景を見下ろしていた。街はまるで平板な鋳型に流し込まれたどろどろした光のように見える。あるいは巨大な蛾が金粉を撒きちらした後のようにも見える。

山の中腹に立つ彼のアパートからは闇の中に雑然とばらまかれた人々の営みをくっきりと見下ろすことができた。時折鼠は両手を腰にやり、まるでダウンヒルのコースに立ったゴルファーのように、何時間も意識を集中してそんな風景を眺めることがあった。《…略…》そして暗い海、海と空の闇は区切りようもないばかりに溶け合い、その闇の中に灯台のオレンジ色の光が浮かび、そして消えた。そしてはっきりと区切られたそれらの断層の間を暗いフェアウェイが一筋貫いている。

輪郭を夕闇に溶かし、ただの濃い影となった建物

廓寥（かくりょう）とした深夜の気配

水色の夜気の中で芝生が霧に濡れて広がる

日の光の新しい午前の往来

今日一日の終わりを告げるかのように、まぶしい太陽がビルの間に沈みつつあった

都会特有の微かな羽音のような、途切れることのない騒音

砂が眩しいくらい白い

草原が 巾着 の底のように、丘に囲まれて行き止ったところ

まったくの荒れ地

林の中は暗く道は細かった。 樫かし や 櫟くぬぎ に似た大木の聳える間を、名も知れぬ低い雑木が 隙間 なく埋め、 蔦つた や 蔓つる を張りめぐらしていた。四季の別なく落ち続ける、熱帯の落葉が道に朽ち、柔らかい感触を 靴くつ 裏うら に伝えた。静寂の中に、新しい落葉が、 武蔵野 の道のようにかさこそと 足許あしもと で鳴った。