青から藍（あい）に変わって行きつつある初夏の夜

あきらめて空を見上げる。ぎらぎらと満天の星が、地上の人生とはいかにも関係なさそうに超越的に輝いている。

今日の夜空は星も月も出ていないのに明るい。雲のぼんやりとした半熟の白みが、空を覆いつくして闇をさえぎり、夜を完全にしない。

金閣には潮のように夜が押し上げ

透けた夜空の向こう側、宇宙の中身がうっすらと見える。きっと明日は晴れるのだろう。

空からきゅうに花火がふるように、ながれ星がいっぱいふりだしてきた。

地上の明かりが消えたぶん、彗星はますます明るい。雲の上に長く尾をたなびかせて、巨大な蛾のように輝く鱗粉をふりまいている。

大気との摩擦熱で燃え上がり、岩塊がガラス質となり、宝石のように輝いている。

その時、東の空に流れる星が見えた。星は一筋の短い線を引いて消えた。

日が暮れて間もない闇の奥から、きらきらする見慣れない星たちが、後ろに長い光の尾を引いてこっちに迫ってくるよう

夜は次第に降りて来た。

（夜の山）四方の山々は 蠑螈いもり の背のように黒かった。

店の外に出ると、夕暮れだった。白いマンションや白い人間達から順に夕暮れの色になっていく。

（庭のデッキ・チェアで眠りから覚めると）日は西に傾いて、松の木の枝の影がくるぶしのあたりまで僕の体をすっぽりと包んでいた。時計の針は三時四十分を指している。

終電車はもうとうに終わっている。駅舎もホームも照明が落とされて暗い。駅周辺の商店も、住宅も、明かりの漏れている建物は少なく、林や畑はもとより夜の闇そのものみたいに真っ暗、というか真っ黒に映る。 　そのなかをまばらな街灯が繫いで示す道は細く頼りなく曲がりくねり、今は寝静まっているこの街の人々の住まいと住まいを結びながら闇に突っ込んだように途絶えたり、明るいオレンジ色の街灯とともに北側を太く力強く走る国道に届いたりした。 　その国道こそ時折トラックなどが走ってきて去っていき、動きの乏しいこの町の夜景が、時間の止まった静止画ではないことを気づかせてもくれるのだったが、南側の畑が広がる間の細い道路を移動する自動車の光があると、むしろ時間と空間を超え来た物体を夜空に見ているような錯覚に陥った。

濃い粘い湿気が澱む

空には雲が混み合って浮かんでいた。サイズはまちまちだ。いくつかの大きな雲があり、いくつかの小さな雲があった。

水っぽい春の月

刷毛でなすったような白い雲の筋が浮かぶ

烏帽子岳（えぼしだけ）の頂のような形の雲