星は語らない。ただはるかな山すそから、干潮になった無月の潮騒 が、海妖 の単調な誘惑の歌のように、なまめかしくなでるように聞こえて来るばかりだ。風が落ちたので、凍りついたように寒く沈み切った空気は、この海のささやきのために鈍く震えている。
有島武郎 / 生まれいずる悩み ページ位置:94% 作品を確認(青空文庫)
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波の音・潮騒
冬の空
星
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前後の文章を含んだ引用
......ろな光度といろいろな光彩でちりばめられた無数の星々の間に、冬の空の誇りなる参宿 が、微妙な傾斜をもって三つならんで、何かの凶徴のようにひときわぎらぎらと光っていた。星は語らない。ただはるかな山すそから、干潮になった無月の潮騒 が、海妖 の単調な誘惑の歌のように、なまめかしくなでるように聞こえて来るばかりだ。風が落ちたので、凍りついたように寒く沈み切った空気は、この海のささやきのために鈍く震えている。 君はその平地の上に立ってぼんやりあたりを見回していた。君の心の中にはさきほどから恐ろしい企図 が目ざめていたのだ。それはきょうに始まった事ではない。ともすれば......
単語の意味
潮騒(しおさい・しおざい)
海妖(かいよう)
艶めかしい・艶かしい・嬌しい(なまめかしい)
無月(むげつ)
潮騒・・・潮が満ちてくるときの、騒ぎ立つ波の音。寄せては返す波の音。
海妖・・・海に現れる妖怪や化け物。
艶めかしい・艶かしい・嬌しい・・・女性が、性的魅力を体全体からかもし出していて美しい。女性の容姿やしぐさや表情が性的魅力にあふれている。色っぽい。婀娜(あだ)っぽい。コケティッシュ。
無月・・・空が曇って月が見えないこと。とくに、陰暦8月15日の夜の月についていう。
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波の音・潮騒の表現・描写・類語(音の響きのカテゴリ)の一覧 ランダム5
沖から寄せる海嘯(かいしょう)の叫び声
三島 由紀夫 / 午後の曳航 amazon
あんまり静かなので、波の音が腹にはいって来るようだ。
林 芙美子 / 風琴と魚の町 amazon
波濤の音は《…略…》性急に噛みつくように聞えた。
阿部 知二 / 黒い影 (1950年) amazon
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冬の空の表現・描写・類語(冬のカテゴリ)の一覧 ランダム5
空が、初冬の朝の拭き清めたような輝きに満ちる
佐多 稲子 / 素足の娘 amazon
広い窓の外、冬の初めのグレーが街を覆っているのを見つめていた。 この小さな街のすべての部分に、公園に、路に、霧のようにしみとおる冬の重い冷気を支え切れない。押されて息ができない。
吉本 ばなな / 満月 キッチン2「キッチン (角川文庫)」に収録 amazon
寒さをかすかな光にしたような雲のない空が、息もつかずに、凝然として延び広がっていた。
有島武郎 / 生まれいずる悩み
ザラついた粒子の粗い冬の空
阿久悠 / 瀬戸内少年野球団 amazon
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星の表現・描写・類語(空・中空のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(ふたご座)小さな水晶 ででもこさえたような二つのお宮
宮沢賢治 / 銀河鉄道の夜
空には星が、スクリーンの斑紋のように、吹き流されていた。
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
星がラッパを吹いている。 突きさしたら血が吹きこぼれそうだ
林芙美子 / 新版 放浪記
氷のかけらのような星
松谷 みよ子 / 赤ちゃんのお部屋「黒い蝶・うさぎのてぶくろ ほか (松谷みよ子全集)」に収録 amazon
目に見える星たちはどれも釘で打ちつけられたみたいに、同じひとつの場所にじっと留まっていた。
村上春樹「スプートニクの恋人 (講談社文庫)」に収録 amazon
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「空・中空」カテゴリからランダム5
様々の形に尾を引いて流るる白い雲……黒い雲……黄色い雲……その切れ目切れ目に薬液のように苦々しく澄み渡っている青い青い空
夢野久作 / ドグラ・マグラ
凡庸な、マンネリズムの風景画の空のような青空
阿部 昭 / 千年 (1977年) amazon
薄明りの平野のなかへ、星水母 ほどに光っては消える遠い市の花火。海と雲と平野のパノラマがいかにも美しいものに思えた。
梶井基次郎 / 城のある町にて
「冬」カテゴリからランダム5
三月は春ながらまだ底冷えが残っている。
岡本かの子 / 河明り
蛙は体を凍てつかせて地中に眠り、兎は白い衣に着替える
高橋三千綱 / 涙 amazon
正月と同じくらいの巨大な行事に成長したクリスマスは、その年の通信簿を兼ねている。今年を充実して過ごし、人と良い関係を築けた人間はわいわいと親しい人たちと楽しいクリスマスが送れるし、一人でも充実した日々を送れた人ならクリスマスに一人でもべつに落ち込まずに淡々と過ごせるだろう。でもさびしがりやのくせに人間関係をおろそかにしてきた人や、私のように人間関係のごたごたを解決できないまま十二月を迎えた人間は、最低の通信簿をもらう。
綿矢 りさ / かわいそうだね?「かわいそうだね? (文春文庫)」に収録 amazon
黒い毒液をこね回したような海に、雪が白い睡眠薬のように降り注ぐ
加賀乙彦 / 海霧 amazon
「音の響き」カテゴリからランダム5
造り花の蓮華にふる日の光の音さえ聞こえるくらいしんと静まり返る
芥川 龍之介 / 邪宗門 (1977年) amazon
喫茶店から甘い、くすぐるような音楽が聞こえてくる
遠藤周作 / 海と毒薬 amazon
「水面・水中・水辺」カテゴリからランダム5
絵のように影をうつした池の面
中 勘助 / 銀の匙 amazon
真白にさらしたサテンのような浄(きよ)い波
平林 たい子 / 秘密 amazon
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