TOP > 風景表現 > 時間帯(朝・昼・夜) > 夜空
いびつに切り拓かれた円味のある土地を椰子の林が黒く取巻いている。截 り立ったような梢 は葉を参差 していて、井戸の底にいるような位置の私には、草荵 の生えた井の口を遙かに覗 き上げている趣であった。 その狭い井の口から広大に眺められる今宵 の空の、何と色濃いことであろう。それを仰いでいると、情熱の藍壺 に面を浸し、瑠璃色 の接吻 で苦しく唇を閉じられているようである。夜を一つの大きな眼とすれば、これはその見詰 める瞳 である。気を取り紛らす燦々 たる星がなければ、永くはその凝澄 した注視に堪えないだろう。
※備考※ 塔や谷の描写ではないが参考になるためタグを付与した
岡本かの子 / 河明り ページ位置:64% 作品を確認(青空文庫)
この表現が分類されたカテゴリ
夜空
森林・ジャングル
崖・谷・断崖絶壁
塔・高層建築物
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......粘って青臭い護謨の匂 いが、何か揮発性の花の匂いに混って来る。 壁虎 がきちきち鳴く、気味の悪い夜鳥の啼 き声、――夕食後私はヴェランダの欄干 に凭 れた。私のいる位置のいびつに切り拓かれた円味のある土地を椰子の林が黒く取巻いている。截 り立ったような梢 は葉を参差 していて、井戸の底にいるような位置の私には、草荵 の生えた井の口を遙かに覗 き上げている趣であった。 その狭い井の口から広大に眺められる今宵 の空の、何と色濃いことであろう。それを仰いでいると、情熱の藍壺 に面を浸し、瑠璃色 の接吻 で苦しく唇を閉じられているようである。夜を一つの大きな眼とすれば、これはその見詰 める瞳 である。気を取り紛らす燦々 たる星がなければ、永くはその凝澄 した注視に堪えないだろう。 燦々たる星は、もはやここではただの空の星ではない。一つずつ膚に谷の刻みを持ち、ハレーションを起しつつ、悠久に蒼海 を流れ行く氷山である。そのハレーションに薄肉色......
単語の意味
堪えない(たえない)
瑠璃色(るりいろ)
趣(おもむき)
仰ぐ(あおぐ)
藍壺・藍壷(あいつぼ)
情熱(じょうねつ)
堪えない・・・気持ちを抑えられない。感情を表に出さずにいられない。
瑠璃色・・・宝石の瑠璃のような色。少し紫の入った青。
趣・・・しっとりと落ち着いて、心惹かれる特徴や雰囲気。そのものがもっている、自然とかもし出される(いい)雰囲気。ずいぶん昔のものなのに、手入れがされているさま。風情(ふぜい)。
仰ぐ・・・1.見上げる。上を見る。
2.敬う。尊敬する。
2.敬う。尊敬する。
藍壺・藍壷・・・藍染めの染料を入れておくつぼ。藍甕(あいがめ)。
情熱・・・感情が熱を持っている心理状態。燃え上がるような激しい感情。ある目標や物事に向かって忍耐強くいちずに打ち込むさま。また、そういう気持ち。熱情(ねつじょう)。
ここに意味を表示
夜空の表現・描写・類語(時間帯(朝・昼・夜)のカテゴリ)の一覧 ランダム5
街では星をいっぱい浴びて
林芙美子 / 新版 放浪記
このカテゴリを全部見る
森林・ジャングルの表現・描写・類語(地上・陸地のカテゴリ)の一覧 ランダム5
樹皮や木の芽のむんむんする激しい香の中へ進んで行った
大江健三郎 / 芽むしり仔撃ち amazon
このカテゴリを全部見る
崖・谷・断崖絶壁の表現・描写・類語(地上・陸地のカテゴリ)の一覧 ランダム5
平地から突然下方に折れ曲がった崖の縁 が、地球の傷口のように底深い口をあけている。
有島武郎 / 生まれいずる悩み
漏斗 状 の斜面の収束するところ
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
窖(あなぐら)のような崖下の暗さ
林 芙美子 / 骨「新潮日本文学 22 林芙美子集 放浪記・稲妻・浮雲・風琴と魚の町・清貧の書・泣虫小僧・牡蠣・晩菊・骨・下町」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
塔・高層建築物の表現・描写・類語(家・建物のカテゴリ)の一覧 ランダム5
巨大な要塞が、不吉な白蟻の塔のごとく夕暮れの淡い闇の中にくっきりとそびえ立つ
村上 春樹 / 螢・納屋を焼く・その他の短編 amazon
雲一つなく暮れて行く空を刺していた黒い鉄骨のエッフェル塔は余りににべも無い。
岡本かの子 / 巴里祭
1階がクリーニング屋で、その脇に入口があった。エレベーターもない、ごつごつした灰色の、3階建のマンション。
吉本 ばなな「N・P (角川文庫)」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
「時間帯(朝・昼・夜)」カテゴリからランダム5
夜明のしらしらとした往来が 石油色に光っている
林芙美子 / 新版 放浪記
朝が、幕をあげるように、するすると明け放れる
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
重い気が籠った闇夜 である。
岡本かの子 / 雛妓
「地上・陸地」カテゴリからランダム5
落城の砦ともけだものの爪ともみえる雪の天山山脈
竹西 寛子 / 長城の風 amazon
二十五階の部屋だった。今までのどの眺めともちがい、見下ろすと野球のグラウンドが見え、高架の道路が走り、それらの空間の向うに高層ビルのいくつかが聳えていた。
山田太一「飛ぶ夢をしばらく見ない」に収録 amazon
「家・建物」カテゴリからランダム5
まるでやる気のないそば屋があった。 店頭の食品サンプルは、すっかり陽にやけて色あせ、ザルソバにも天丼にもうっすらとホコリがかぶっている。
東海林 さだお「タコの丸かじり (文春文庫)」に収録 amazon
町の高みには皇族や華族の邸に並んで、立派な門構えの家が、夜になると古風な瓦斯 燈の点 く静かな道を挾 んで立ち並んでいた。
梶井基次郎 / ある崖上の感情
角を曲がるとつきあたりがM病院だった。姉が言った通り、そこだけ時間が止まっていた。ずっと長い間記憶の中に閉じ込められていたM病院が、そのまま目の前にあった。
小川 洋子「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
同じカテゴリの表現一覧
時間帯(朝・昼・夜) の表現の一覧
地上・陸地 の表現の一覧
家・建物 の表現の一覧
風景表現 大カテゴリ