日本語表現インフォ > 比喩表現の一覧 > 人物の比喩 > 動作・仕草・クセの比喩表現
動作・仕草・クセの比喩を使った文章の一覧(891件)
弓のようにまがった背骨をミチミチと音をたててのばし
開高健 / 流亡記 amazon
全身の律動が、二人の血を細かいアワのようにわきたたせた
石坂洋次郎 / 青い山脈 amazon
懐から拳銃を取り出すようにメモを取り出した
428 ~封鎖された渋谷で~ amazon
顔を洗うのにずごく長い時間がかかる。歯を一本一本取り外して洗っているんじゃないかという気がするくらいだ。
村上春樹 / ノルウェイの森 amazon
両手を床について前かがみになり、まるで吐くような格好で泣いた
村上春樹 / ノルウェイの森 amazon
店員は、先ほどから働き続けていた。一時も休みはしない。まるで産業革命時のイギリスのようであり、野麦峠の女工さんのようでもある。日本の高度経済成長をこの店員が一人で支えているのではないかと錯覚してしまうほど忙しく動き回っている。
せきしろ / 去年ルノアールで 完全版 amazon
「一日中家の中にいて電話を待ってなきゃいけないなんて本当に嫌よね。一人きりでいるとね、体が少しずつ腐っていくような気がするのよ。だんだん腐ってきて溶けて最後には緑色のとろっとした液体だけになってね、地底に吸い込まれていくの。そしてあとには服だけが残るの。そんな気がするわね、一日中じっと待っていると」
村上春樹 / ノルウェイの森 amazon
膝をふたつに折って、餓えた孤児のようにその上に顎をのせて
村上 春樹 / ノルウェイの森 上 amazon
虫が脱皮するときのように腰の方にガウンをするりと下ろして
村上 春樹 / ノルウェイの森 上 amazon
指でこめかみを押さえながら本を読んでいたが、それはまるで頭に入ってくる言葉を指でさわってたしかめているみたいに見えた。
村上 春樹 / ノルウェイの森 下 amazon
悪夢の襲われた人間のように、したくもない人殺しを無理に勧める
芥川 竜之介 / 袈裟と盛遠 amazon
目尻から溢れ出た涙が、耳たぶからポタポタと雨だれのように落ちる
加賀 乙彦 / 海霧 amazon
網にすくいとられた魚のように全身をびくっと震わせる
小林久三 / わが子は殺人者 amazon
テニス大会で優勝したダブルスのペアのように拳をぶつけ合った
七尾 与史 / 死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) amazon
全身飴のごとく、床へへばりつく
ジュール・ルナール / にんじん amazon
ライフジャケットをまとった男たちが、水に落ちるアリのように、ばらばらと水面に落下する
西木 正明 / 標的 amazon
鮑(あわび)の身のように体じゅうを引き締めて硬くなる
谷崎 潤一郎 / 猫と庄造と二人のおんな amazon
家を燕のように軽々と飛び出す
川端 康成 / 掌の小説 amazon
呼吸をやめたかのように少しも身動きしない
連城 三紀彦 / 棚の隅 amazon
ぱちぱちと手を打つ音が静かな辺りに響きかえって、日中に石を割る音のように聞こえる
内田 百けん / 冥途 amazon
百日の日照りの石だたみよりもなお乾いた笑い
光瀬 龍 / 百億の昼と千億の夜 amazon
溜まりに溜まっていた熱い泉が堅い地を破って、一時に迸って来たように、涙を流す
島崎 藤村 / 藤村パンフレット〈第2輯〉三人 amazon
豚みたいに、食べるほうが忙しくて、ほかのことは何も考えるひまがない
テネシー・ウィリアムズ / 欲望という名の電車 amazon
悪戯小僧のように顔じゅうをくしゃくしゃさせて泣き笑いする
今 日出海 / 天皇の帽子 amazon
涙がはらはらと崩れて、光の糸を曳きながら流れる
谷崎 潤一郎 / 痴人の愛 amazon
両膝をあげて、いなごのように床を蹴る
川端 康成 / 掌の小説 amazon
二人の子供が、中のよい犬の仔のように泳ぐ
庄野 潤三 / プールサイド小景 amazon
車にはねられた犬のように、よろよろと立ち上がる
小池 真理子 / 小池真理子のミスティ―小池真理子短篇ミステリ傑作集〈1〉 amazon
分娩後の犬が立ち上がるような頼りない起き方
有吉 佐和子 / 三婆 amazon
頭の足りない犬のように、じっと坐って夫を待っている妻
大庭 みな子 / がらくた博物館 amazon
犬のように、荒々しく体を慄(ふる)わせて水を払う
三島 由紀夫 / 午後の曳航 amazon
飢えきった痩せた犬が不時の食にありついたかのように、がつがつとたちまちの間に平らげる
志賀 直哉 / 小僧の神様―他十篇 amazon
ちぎれんばかり尾を振って飛びかかる犬さながらの姿
里見 トン / 極楽とんぼ amazon
尻尾に火のついた犬みたいに手をふりまわす
大庭 みな子 / 三匹の蟹 amazon
大きな樹か岩のように安心してよりかかれる夫
円地 文子 / 朱を奪うもの amazon
痛みはさして激しくはなかったけれど、まるで体が幾つかの別の部分に分断されてしまったような異和感を僕に与えつづけていた。
村上 春樹 / 1973年のピンボール amazon
二本の箸の両先端が、自分の体の部分ように違和感なく精妙に働く
竹西 寛子 / ひとつとや amazon
石に化したように身動きせずに立ちつくす
光瀬 龍 / 百億の昼と千億の夜 amazon
黙然として石の地蔵のように身じろぎもしない
幸田 露伴 / 幸田露伴 amazon
左足を右へ左へ回そうとしたが、ギプスの中のように動かない
伊集院 静 / 三年坂 amazon
人影が、人形のようにじっとしている
大岡 昇平 / 野火 amazon
石のように坐って、長いこと動く気配を見せない黒い影
高井 有一 / 北の河 amazon
レーダーを持っているみたいに動き回る
マイ・シューヴァル / バルコニーの男 amazon
野うさぎのように物かげに隠れようとする
室生 犀星 / 舌を噛み切った女 (1957年) amazon
兎が草を食べるように、歯の先で煎餅を小刻みに噛む
石坂 洋次郎 / 丘は花ざかり amazon
月を取ろうとするかのように腕をあげる
辻井 喬 / 暗夜遍歴 amazon
両腕がのろのろと機械仕掛けのように上にあがる
日野 啓三 / 抱擁 amazon
横にひろげた両腕を鶏が羽ばたくように波打たせる
三浦 哲郎 / モーツァルト荘 amazon
直立不動で立たされていた生徒が教師からやっと許しを得たような、大げさな肯(うなず)き方
連城 三紀彦 / 恋文 amazon
餅を飲み込むように大きく頷く
獅子 文六 / てんやわんや amazon
ギニョール人形の首の部分だけががっくりと前に崩れたように頷く
藤本 義一 / やさぐれ刑事 amazon
魂を抜かれたようにただコクコクと何度も頷く
鷺沢 萠 / 大統領のクリスマス・ツリー amazon
猫のようにこくりと頷く
高樹 のぶ子 / 光抱く友よ amazon
波が寄せてくるような工合に胸をうねらせる
谷崎 潤一郎 / 痴人の愛 amazon
体力のつきた馬のように、両足をふにゃふにゃと折って膝をつく
野間 宏 / 真空地帯 amazon
海面の中にいるように風景が滲んで見える
高橋 三千綱 / 涙 amazon
古びた額縁のなかの絵のように、老女も白猫もうごかない
落合 恵子 / 夏草の女たち amazon
涙を頬にへばりつかせたまま、白熱灯のような笑顔を見せる
鷺沢 萠 / 大統領のクリスマス・ツリー amazon
ありありと眼に映るように描写する
夏目 漱石 / 『土』に就て 長塚節著『土』序 amazon
赤児が初めて笑い出す靨(えくぼ)のような消えやすい笑い
横光 利一 / 微笑 amazon
海老みたいにこごんで縫いものをする
中 勘助 / 銀の匙 amazon
テーブルの上の塩入れや胡椒入れを引き寄せるみたいな、遠慮会釈のない手つきで体を引き寄せる
田辺 聖子 / 休暇は終った amazon
追いかけられているように、あたふたと後も見ずに門を出て行く
石川 達三 / 花のない季節 amazon
スタート前のスプリンターのように手首を振りながら立ちジャンプする
七尾 与史 / 死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) amazon
雪の中に二週間も飲まず食わずにいた貪欲な狼のようにがつがつ食べる
ダニエル・デフォー / ロビンソン・クルーソー amazon
からだを尺取り虫のようにして起き上がろうとする
小林 多喜二 / 蟹工船 一九二八・三・一五 amazon
生まれたての小鹿が初めて立ち上がるように身を起こす
有吉 佐和子 / 三婆 amazon
陳列棚の置物のように、道路に向かってじっと座っている
池田 満寿夫 / 10フランの恋人 amazon
ぐぎぎっと音でもしそうなかんじの、ぎくしゃくとしたおじぎ
椎名 誠 / 雨がやんだら amazon
英国の女王の前に出たときのように深々とお辞儀する
大庭 みな子 / がらくた博物館 amazon
額を畳に吸いとられたように長ながとお辞儀する
安岡 章太郎 / 青葉しげれる amazon
不覚の涙が白粉の砂漠に肉色の流れをつくる
武田 泰淳 / 風媒花 amazon
手が木枯らしの中の落ち葉のように顫(ふる)えやまない
檀 一雄 / リツ子・その愛 amazon
大きな樹か岩のように安心してよりかかれる夫
円地 文子 / 朱(あけ)を奪うもの amazon
ぱちぱちと手を打つ音が静かな辺りに響き返って、日中に石を割る音のように聞こえる
内田 百けん / 冥途 amazon
はっはっと男のように闊達に笑う
壷井 栄 / 大根の葉・暦 (1980年) amazon
恋人の訪れのごとくイソイソと階段を降りる
坂口 安吾 / オモチャ箱・狂人遺書 amazon
バネ仕掛けの人形のように楽しく体を踊らせる
川端 康成 / 掌の小説 amazon
ラジオ体操をやっているような踊り
西木 正明 / 『幸福』行最終列車 amazon
時が水泡の中を動くように同じことの繰り返し
藤枝 静男 / 或る年の冬 或る年の夏 amazon
八十の老婆のように腰が重い
荻野 アンナ / 背負い水 amazon
いきな芸妓姿で会場を金魚のように華やかに泳ぐ
胡桃沢 耕史 / ごきぶり商事痛快譚 (1) amazon
姫が、玉の鎖がばらばらになって飛び散ったように倒れる
井上 靖 / 風林火山 amazon
少女のようにくすぐったそうに笑う
高橋 三千綱 / 涙 amazon
しくしく蚊のように泣く
泉 鏡花 / 高野聖 amazon
蚕が桑の葉をかじるようにして、無味乾燥な参考書の頁を一枚一枚読みすすむ
高橋 和巳 / 我が心は石にあらず amazon
袖も裾も海松布(みるめ(海藻の一種))のように引き切れる
柴田 錬三郎 / 南国群狼伝 amazon
小さな獣のように階段を駆け下りる
原田 宗典 / 十九、二十(はたち) amazon
泥棒ネコのようにこっそりと螺旋階段をのぼる
開高 健 / 地球はグラスのふちを回る amazon
足が折れた蛙のように飛び下りる
川端 康成 / 掌の小説 amazon
解剖台の上の蛙のように、ぴくぴくと股をふるわせる
高橋 和巳 / 我が心は石にあらず amazon
ひき蛙が跳ねるような格好で雑巾をかける
連城 三紀彦 / 恋文 amazon
物分りのいい老人のような顔つきで大きくうなづく
三田 誠広 / 僕って何 amazon
牡蠣のようにへばりつく
島尾 敏雄 / 出孤島記 amazon
ペンの先から思いが溢れてこぼれ散る
三浦 綾子 / 続 氷点 amazon
過去をふりかえってみるようなつもりで稿を進める
三好 達治 / 詩を読む人のために amazon
濛々たる暗霧の中に包まれて、筆が躊躇する
山田 美妙 / あぎなるど―フィリッピン独立戦話 amazon
身辺の日常をかき流して行くふうの気楽な書き方
藤枝 静男 / 或る年の冬 或る年の夏 amazon
仲のいい中学生同士のように、お互い目くばせしながら面白そうに笑う
五木 寛之 / ワルシャワの燕たち amazon
野鼠のように山の中に隠れる
遠藤 周作 / 沈黙 amazon
オッパイにむしゃぶりつくみたいに蛇口に吸いつく
阿部 昭 / 千年 (1977年) amazon
一陣の風のごとく視界から消え去る
池波 正太郎 / 剣客商売 amazon
ゴム毬(まり)を押し潰したような、ぐすっという音とともに肩を波打たせる
里見 トン / 極楽とんぼ―他一篇 amazon
三色の小旗をお花畑のように揺り動かす
大仏 次郎 / 雪崩 (1953年) amazon
穴から出てきた蟹ほどに向こう見ず
島尾 敏雄 / 出孤島記 amazon
壁が崩れるような笑い方
獅子 文六 / てんやわんや amazon
虫のように辛抱強い動きを繰り返す
藤沢 周平 / 三屋清左衛門残日録 amazon
炎のように髪を振り立てて踊り狂う
白洲 正子 / 能の物語 amazon
風に逐(お)われた紙屑のように、路地から転がり出す
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
渚では、逆巻く濃藍色の背景の上で、子供が紙屑のように坐っている
横光 利一 / 春は馬車に乗って amazon
爆笑がおこって、雷が鳴りひびくときのように伝わって行く
小島 信夫 / アメリカン・スクール amazon
釣るし亀が泳ぐような格好をしてシャーツを脱ごうとしてもがく
二葉亭 四迷 / 其面影 amazon
薄硝子の人形でも撫でるようにそっと撫でる
加賀 乙彦 / 海霧 amazon
ガラスのかけらでも噛むようにゆっくり食べる
ジュール・ルナール / にんじん amazon
白い蛇のようにぴったりからまりあっている二つの体
胡桃沢 耕史 / ごきぶり商事痛快譚 (1) amazon
忘れてしまった旧(ふる)い唄のメロディーをなつかしみたぐりよせる程度の軽い気持ち
瀬戸内 寂聴 / 愛すること―出家する前のわたし amazon
一本の枯れ木のようにたわいなく倒れる
高橋 三千綱 / 涙 amazon
着物や帯を、自分の皮を一枚剥ぐような仕草で脱ぎ捨てる
梅本 育子 / 桃色月夜 amazon
着物も袴(はかま)も、野分の風にあたった芭蕉の葉のように切り裂かれる
海音寺 潮五郎 / 武道伝来記 amazon
滝がなだれ落ちるように斬りまくる
白洲 正子 / 能の物語 amazon
春になって芽をふき花を咲かせる草のようにせっせと動く
梅本 育子 / 桃色月夜 amazon
憑依の去った巫者(ふしゃ)のように、身も心もぐったりとくずおれる
中島 敦 / 李陵 amazon
身体が、空気が抜けたゴム人形のように膝から崩れ落ちる
西木 正明 / 『幸福』行最終列車 amazon
癖のある投げたような笑い方
大仏 次郎 / 冬の紳士 amazon
トマトを輪切りにしたような、大口をあける笑い方
獅子 文六 / てんやわんや amazon
吹き付けのコンクリートの砂のように壁にぴったりとくっつく
ウィリアム・アイリッシュ / 黒いカーテン amazon
猫の足の裏にくっついたチューインガムみたいに、べったりとくっつく
ロナルド・マンソン / ファン・メイル (上) amazon
糸が切れて離れた首飾りの玉のように、涙が散らばる
大仏 次郎 / 雪崩 (1953年) amazon
回転扉の連続運動のように繰り返す
長野 まゆみ / 銀木犀 amazon
玩具に熱中する子供のように幾度も幾度も繰り返す
有吉 佐和子 / 華岡青洲の妻 amazon
蚕が桑を食うようにめちゃくちゃに本を読む
臼井 吉見 / 自分をつくる amazon
息を引き取る病人のように、がくがくと大きく開いた口が痙攣する
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
できるだけ身をちぢめ、小さい獣たちのように暗い光の下で黙りこくる
大江 健三郎 / 芽むしり仔撃ち amazon
しばしの別れを惜しむ恋人のように、甘やかな悲しいような幸せな気持ち
壷井 栄 / 草の実 (1962年) amazon
ゴキブリのようにシーツにへばりつく
池田 満寿夫 / 10フランの恋人 amazon
腹を強く殴られてゴキブリのようにひっくり返る
小林 信彦 / 世界でいちばん熱い島 amazon
コップを投げつけるみたいな野蛮な真似
高井 有一 / 夜の蟻 amazon
眼が梢上(しょうじょう)の小鳥のように、活字と活字の間を飛ぶ
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
身に、眼には見えないこわばりの波が走る
黒井 千次 / 春の道標 amazon
緊張にしめ上げられて、全身の筋肉が古革のようにこわばり、首を動かしただけでも、ぎしぎし音を立てそうなほど
安部 公房 / 第四間氷期 amazon
壊れやすい宝物のようにそっと握りしめる
内館 牧子 / あしたがあるから amazon
審判を仰ぐ罪人のように足元にひれ伏す
ロナルド・マンソン / ファン・メイル (上) amazon
巨大な虫が這いずるように、ずるずると木材が運ばれて行く
本庄 陸男 / 石狩川 amazon
フラッシュがひっきりなしに焚かれ、花火のような盛大さ
今 日出海 / 天皇の帽子 amazon
酒にでも酔ったかと思うような覚束ない身のこなしで、おもむろに体を起こす
芥川 龍之介 / 邪宗門 (1977年) amazon
酒を水でも飲むような無表情な顔で悠然と飲む
高見 順 / 如何なる星の下に amazon
表情が止まった空白の上を、さざ波のように微笑みが広がる
荻野 アンナ / 背負い水 amazon
札が、山羊の口に挟みこまれるように、モグモグと指に握り取られる
武田 泰淳 / 風媒花 amazon
するすると猿のように梯子(はしご)をのぼって行く
安岡 章太郎 / 質屋の女房 amazon
スチームのパイプが瀕死の気管のように不規則に喘ぐ
日野 啓三 / 抱擁 amazon
女の涙腺は蛇口と同じ
宮部 みゆき / とり残されて amazon
籠(かご)を、葬式の写真を両手で抱えるようにして持つ
谷村 志穂 / ハウス amazon
辺りを支配する沈黙を切り裂くように、シャッターの音だけが立て続けに響き渡る
原田 宗典 / 十九、二十(はたち) amazon
シャッターの連続音が射精に近い快感
小林 信彦 / 神野推理氏の華麗な冒険 amazon
心が水々しい果実を舐めるがように感極まってむせぶ
横光 利一 / 時間 amazon
叩かれた犬のような眼をして後ずさりする
遠藤 周作 / 沈黙 amazon
腰の高いスツールへふわりと浮き上がるように坐る
半村 良 / 雨やどり amazon
全神経を耳に集めているかのように、じっと床の上に坐っている
外村 繁 / 筏 amazon
背筋が、ばねが入ったようにまっすぐ伸びる
谷村 志穂 / ハウス amazon
大げさに手を振ってくれた。まるで遠い辺境の地に出征する兵士を見送るみたいに。
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
肩胛骨が水面すれすれに蝶の羽のように美しく動いた
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
擬態する動物のように息を殺し、匂いを消し、色を変え、闇に身を沈めている
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
彼は大学のプールで、灰田の後ろを泳ぎながらいつもその足の裏を見ていた。夜の道路を運転する人が、前の車のテールライトから目を離さないのと同じように。
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
そして握手の手を差し出す暇もつくる(人名)に与えず、さっさと車を降り、大股に歩き出した。後ろも振り返らなかった。冥界への道筋を既に死者に教えた死神のように。
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
コンピューターの電源を入れてみた。軽く錆(さび)をこするようなひきつり音が内部から聞こえ、画面に弱々しい白い光がヴンと灯り、機械が目覚める。おんぼろコンピューターは機体を細かく震わせながら起動していき画面の光りもそれにあわせてぶるぶる震える。その震え方は、昔親戚一同でカラオケBOXに行ったときに聴いたおじいちゃんのあの歌声、肺活量が弱っている年寄りならではのあのビブラートがききすぎた歌声を私に思い出させた。
綿矢 りさ / インストール amazon
ハチミツを与えた熊のように時計を喜んで受け取った
綿矢 りさ / You can keep it.「インストール (河出文庫)」に収録 amazon
誰も引き受け手の見つからない仕事は必ず僕のところに回ってきた。トラブルを抱えたややこしい仕事も必ず僕のところに回ってきた。僕はその社会の中では町はずれの廃車置き場のような位置をしめていた。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
雪かきのようなものだよ。仕方ないからやってるんだ。面白くてやっているわけじゃない。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
歯磨きのペーストが固まってこびりついているような、そんな感じのこわばり
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
端正な指が彼女の背中を優しく這っていた。まるでそこに隠された水路を探るかのように。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
詩人はどこかから灰皿を持ってきて、それをテーブルの上に優雅にとんと置いた。あたかも妥当な場所に気のきいた装飾句を挿入するように。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
シャム双生児みたいにぴたっとくっついている
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
まるで記憶の繊細な溝を辿るようにそっと、キキの背中を撫でている
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
胃の中にはたいしたものは入っていなかった。吐くべきものもろくになかった。どろりとした(先ほど食べた)チョコレートの茶色い液を吐いてしまうと、あとは胃液か空気くらいしか出てこなかった。いちばん苦しい吐き方だ。体が痙攣するだけで、何も出てこない。体がしぼりあげられているような気がする。胃がこぶしくらいの大きさに縮んでしまうように感じられる。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
自分が植物になってしまったように感じる。それも灰色に近い葉を日陰で閉じて、花も付けずに柔らかい毛に包まれた胞子をただ風に飛ばす羊歯(しだ)のような静かな植物だ。
村上 龍 / 限りなく透明に近いブルー amazon
ビルの屋上から飛び降りる女が頭に浮かんできた。顔は恐怖に歪んで遠去かる空を見ている。手と足を泳ぐ時のように動かしてもう一度上へ上がりたいと踠(もが)いている。結んでいた髪は途中で解け水藻のように頭の上で揺れている、大きくなる街路樹や車や人間、風圧で捩(ねじ)曲がった唇や鼻、まるで暑い真夏に汗をびっしり掻いて見る不安な夢のような光景が頭に浮かんでくる。黒白のスローモーション・フィルムのような、ビルから落ちた女の動き。
村上 龍 / 限りなく透明に近いブルー amazon
頭に溜まった吐気がまたスーッと降りていく時に、射精そっくりの快感があるのに気付いた
村上 龍 / 限りなく透明に近いブルー amazon
ジャマイカの土人達が好む皿と油で煮つめたスープのようなものが喉の奥に詰まっていて、それを吐き出したいと思う
村上 龍 / 限りなく透明に近いブルー amazon
トランプのカードでも切るように、写真をテーブルの上に捨てていった
鈴木 光司 / らせん amazon
遠ざかる背中は、ベルトコンベアーに乗せられた小さな荷物を連想させた。
横山 秀夫 / 半落ち amazon
綿の吹き飛ぶような軽さで、暗い地上へひょいと降りて行った。
林 芙美子 / 女性神髄 (1949年) amazon
拳でがんと一つ張られると、鱒(ます)は女の足のようにべっとりと動かなくなるのであった。
室生 犀星 / あにいもうと「幼年時代・あにいもうと (新潮文庫)」に収録 amazon
便器は、蓋をとると、蠅が勢いよく、胡麻を撒いたように舞い上った。
平林 たい子 / こういう女・施療室にて amazon
無意識にぼうふらかなにかのように、ピクリピクリを繰り返している
大原 富枝 / ストマイつんぼ (1957年) amazon
自由にみずから飛翔できる蛾になるために、どうしても必要な虫たちの脱皮のように、わたくしも一枚の皮膚をわれから剥きとる、辛い心の作業を行った。
大原 富枝 / 婉という女 (1963年) amazon
糸を切られたあやつり人形のように、ぐにゃりと居間の畳に倒れ込み
安部 公房 / 他人の顔 amazon
悪いな、ぼくは黙ってゴキブリみたいに行かせてもらうよ。
島田 雅彦 / 観光客「ドンナ・アンナ (新潮文庫)」に収録 amazon
猫のように物静かでありながら、猫のようにすべてを注意しているらしい彼の挙動
夏目 漱石 / 明暗 amazon
水の中から引き上げられた犬か何かのように身をふるわせるばかり
野間 宏 / 真空地帯 amazon
餓えきった痩せ犬が不時の食にありついたかのように彼はがつがつとたちまちの間に平らげてしまった。
志賀 直哉 / 小僧の神様「小僧の神様 他十篇 (ワイド版岩波文庫)」に収録 amazon
飢えた狼のように貪り飲んだ。
葉山 嘉樹 / 海に生くる人々 amazon
シンデレラのように十二時になると、私の傍らから身を滑らせて消えて行く
中村 真一郎 / 遠隔感応 amazon
はげしく上下に揺すぶった。@略@しばしば聞えなくなる古ラジオの音を出させようとするような、邪慳な手つきだった。
吉行 淳之介 / 吉行淳之介短篇全集〈第4巻〉青い花 (1965年) amazon
目の悪い人が眼鏡を外すことができなくなるみたいに、映画に出てくる殺し屋が手もとから拳銃をはなせないみたいに、僕はカメラのファインダーが切りとる彼女の空間なしには生活していくことができなくなっていた。
村上 春樹 / 回転木馬のデッド・ヒート amazon
泥魚のように、地べたに引きずって
林 芙美子 / 魚の序文 amazon
先にたつものにならう雁のように、みんなも同じほうを見た。
壺井 栄 / 二十四の瞳 amazon
絶滅間際の怯えた恐竜のように、山の中をこうしてうろうろとかくれ場所を探している。
大庭 みな子 / 啼く鳥の amazon
とにかく待つしかない麦の芽のように、なんの感情もなく、ただ待ちつづけた
安部 公房 / 他人の顔 amazon
長い梯子を立てると、するすると蛇のように屋根へ上って行った。
藤森成吉 / 雲雀 amazon
釘に打ちつけられながら、羽目板の下でいつまでも生きている家守のように
岡本 かの子 / やがて五月に (1956年) amazon
ひきがえるのように麦畑のなかへ飛びこんで、麦畑を横切り石崖を攀じ登
り木立ちのなかに姿をくらました。
井伏 鱒二 / 多甚古村 amazon
録音された拍手を長く聞いていると、そのうちに拍手に聞こえなくなる。終わりのない火星の砂嵐に耳を澄ませているみたいな気持ちになる。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
芥川賞でもとったら、ちょっとした話題になると思わないか。マスコミは夕暮れどきのコウモリの群れみたいに頭上を飛び回るだろう。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
まず便座に座って放尿をした。とても長い放尿だった。青豆(人名)は目を閉じて何を思うともなく、遠い潮騒に耳を澄ませるように自分の放尿の音を聞いていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
コートを脱いだ。虫が脱皮するときのようにもぞもぞと体を動かしてそこから抜け出し
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
まるでストローで吸うようにワインを小さく音もなくすすった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
蝶に骨格を与えるのに等しい。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
内容そのものには手を加えず、文章だけを徹底的に整えていく。マンションの部屋の改装と同じだ。基本的なストラクチャーはそのままにする。構造自体に問題はないのだから。水まわりの位置も変更しない。それ以外の交換可能なもの――床板や天井や壁や仕切り――を引きはがし、新しいものに置き替えていく。俺はすべてを一任された腕のいい大工なのだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
作業を交互に執拗に続けているうちに、振幅はだんだん小さくなり、文章量は自然に落ち着くべきところに落ち着く。これ以上は増やせないし、これ以上は削れないという地点に到達する。エゴが削り取られ、余分な修飾が振い落とされ、見え透いた論理が奥の部屋に引き下がる。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
餌を求めて空を舞う鳥の鋭い集中力
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
書き直された『空気さなぎ』の冒頭のブロックを読み返した。スタンリー・キューブリックの映画『突撃』の冒頭のシーンで、将軍が塹壕(ざんごう)陣地を視察して回るように。彼は自分が目にしたものに肯く。悪くない。文章は改良されている。ものごとは前進している。しかし十分とはいえない。やらなくてはならないことはまだ数多くある。あちこちで土嚢(どのう)が崩れている。機関銃の弾丸が不足している。鉄条網が手薄になっている箇所も見受けられる。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
もう一度念入りに読み返した。余計だと思える部分を更に削り、言い足りないと感じるところを更に書き足し、まわりに馴染まない部分を納得がいくまで書き直した。浴室の細かい隙間に合ったタイルを選ぶように、その場所に必要な言葉を慎重に選択し、いろんな角度からはまり具合を検証する。はまり具合が悪ければ、かたちを調整する。ほんのわずかなニュアンスの相違が、文章を生かしもし、損ないもする。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
彼女は何をするにしても、ほとんど音というものを立てなかった。森を横切っていく賢い雌狐のように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
森の奥で滋養のある朝露を吸っている妖精みたい
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
並べた。タロット占いの不吉なカードを並べるみたいに。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
鉄の柱でも入れたみたいに背筋がまっすぐ伸びて、顎がぐいと後ろに引かれている。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
その人物の動きには、すべての部分が圧縮されてコンパクトに作られた精妙な機械を思わせるものがあった。余分なところが一切なく、あらゆる部位が有効にかみ合っている。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
青豆(人名)は地図の道筋を辿るように、老婦人の筋肉をひとつひとつ指先で確かめていった。それぞれの筋肉の張り具合や、硬さや、反発の度合いを、青豆は細かく記憶していた。ピアニストが長い曲を暗譜してしまうのと同じだ。@略@どこかの筋肉に少しでもいつもと違う感触があれば、彼女はそこに様々な角度から、様々な強さの刺激を与えた。そしてどんな反応が返ってくるかを確かめた。そこに生じるのが痛みなのか、快感なのか、あるいは無感覚なのか。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
まるで生物学者が染色体を区分けするみたいに。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
ワインで乾杯をした。グラスを軽く合わせると、遠くで天国の鐘が鳴ったような音がした。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
彼女はフォークとナイフを優雅に使って、まるで小鳥のように少しずつの量を口に運んだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
ミルクをなめる子猫のように、黙ってココアを飲み続けていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
渦をこしらえるというイメージの方が近い。やがてまわりのものが、その渦にあわせて回転を始めるだろう。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
行く先の違う二人が同じ馬に乗って道を進んでいる。あるポイントまでは道はひとつだが、その先のことはわからない。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
手が疲れるとボールペンを置き、ピアニストが架空の音階練習をするみたいに、右手の指を宙で動かした。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
ペニスを手のひらに載せ、その重さを慎重にはかった。まるでその重みが何か重要な事実を物語っているみたいに。@略@手のひらを何度か上下させた。エレベーターの試験運転でもしているみたいに。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
両手を広げ、手のひらを上に向けた。まるで砂漠の真ん中に立って、雨が降ってくるのを待ち受けている人のように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
ほら、よく聴いて。まず最初に、小さな子供が発するような、はっとする長い叫び声があるの。驚きだか、喜びのほとばしりだか、幸福の訴えだか。それが愉しい吐息になって、美しい水路をくねりながら進んでいって、どこか端正な人知れない場所に、さらりと吸い込まれていくの。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
無意識のうちに進めた。まるで飛行機の操縦モードを「自動」に切り替えたみたいに、自分が今どんなことをしているのか、ほとんど考えもしなかった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
彼は真新しい八十八個の鍵盤を前にしたウラジミール・ホロヴィッツ(ピアニスト)のように、十本の指を静かに空中に波打たせた。それから心を定め、ワードプロセッサーの画面に文字を打ち込み始めた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
顔を両手で覆い、声を出さずに肩を細かく震わせて静かに泣いた。自分が泣いていることを、世界中の誰にも気取られたくないという様子で。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
とてもシステマチックだ。ダブルプレーをとることを生き甲斐にしている二塁手と遊撃手のコンビのように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
整えられたベッドカバーの上にじっとうつぶせになっている。まるで洞窟の奥で体力の消耗を防ぎつつ傷を癒している大型動物のように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
それからやがて――どれくらい泣いていたのだろう――もうこれ以上泣くことができないというポイントが訪れた。感情が目に見えない壁に突きあたったみたいに、涙がそこで尽きた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
まるで昆虫が変身をしていくプロセスを目にしているみたいだった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
怪我をした猫のようにどこかにじつと身を潜めていてる
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
口の中にワインをしばらく含み、露を吸う虫のように大事そうにそれを飲み込んだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
それはゆっくりと読まれなくてはならない種類の文章だった。アフリカの大地を流れる時間のように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
しばらく目を閉じ、やさしく呼吸をしていた。まるで文章の余韻に身を浸しているみたいに。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
まるで古代の石版を運ぶ巫女のように(分厚い書類の束を)両手で掲げ持って
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
砂をかぶった海底のひらめみたいに、とても上手に隠れて
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
ただくすくす笑っていた。何がそんなにおかしいのか天吾にはわからなかった。誰かがどこかで「笑い」という札を出しているのかもしれない。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
虫になったザムザのように、その丸くいびつな身体を床の上で器用に動かし、筋肉をできるだけほぐした。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
座り主が動いた(振り向いた)せいで、彼の椅子の脚はプリッツを砕いたような軽い音を出した。
綿矢 りさ / 蹴りたい背中 amazon
逃げていく紙屑を拾おうとして蛙のように低く飛び跳ねる私
綿矢 りさ / 蹴りたい背中 amazon
レンズからファインダーを遡って牛河を観察している。水が屈曲した配水管を逆流していくように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
まずこちらの話を聞いてくれ、と。しかし声は出てこなかった。声帯を震わせるだけの空気がそこにはもうなかったし、舌も喉の奥で石のように固まったままだ。気管は今では隙間なく塞がれていた。空気は一切入ってこない。肺は新鮮な酸素を死にものぐるいで求めていたが、そんなものはどこにも見当たらない。身体と意識が分割されていく感覚があった。身体が寝袋の中でのたうち続けている一方、彼の意識はどろりとした重い空気の層に引きずり込まれていった。両手と両足が急速に感覚を失っていった。なぜだと彼は薄れていく意識の中で問いかけた。なぜ俺がこんなみっともないところで、こんなみっともない格好で死んでいかなくてはならないんだ。もちろん答えはない。やがて辺縁を持たぬ暗闇が天井から降りて、すべてを包んだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
彼の腕の中に身を預ける。サヤの中に収まる豆のように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
口は輪ゴムみたいに丸くゆるんで、顔を赤くして笑っている。
綿矢 りさ / 蹴りたい背中 amazon
主人公とその恋人は紙の上で立ち往生させられている。
林 真理子 / 最終便に間に合えば amazon
「ぎゃははははは」 三婆が揃って笑うと、目の前は金歯とのどちんこの品評会になった。
中島 らも / 今夜、すベてのバーで amazon
たとえばこのプレスリーの(薬物中毒の)記事を読むと、おれは鏡の部屋の中で(アル中の)自分のよどんだ顔つきを見ているような気分になってくる。
中島 らも / 今夜、すベてのバーで amazon
祖母が沼から這い上がるようにしてゆっくりこちらに向かって(階段を)登ってくる。薄暗い階段を、ノソノソと腰の曲った白髪の老婆が登ってくる様は悪夢のようであった。祖母は階段を登り終えると、彼に向かって「このたびは遠い所からようこそおいで下さいました。孫をよろしくお願い致します」と言い残し、登ってくる時と同じ姿勢のまま、ノソノソと階段を降りていった。”沼に住む亀が、老婆に姿を化えて人間界にお告げにやってきた”というような、奇怪なムードにあたり一面包まれ、そのまま時は過ぎた。
さくら ももこ / もものかんづめ amazon
握力が強過ぎるゴリラ同士の握手みたい
又吉 直樹 / 火花 amazon
嘔吐感が、港一の荒くれ者の船に乗った時の五倍
又吉 直樹 / 火花 amazon
颯爽と教室から出ていく。 疾風が去ったかのような雰囲気だけが残る。
伊坂 幸太郎 / アイネクライネナハトムジーク amazon
潰乱した軍隊のように、散り散りに移動をはじめた。
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
その若者は痩身だが、俊敏そうな、しなやかな身のこなしだった。柔らかい猫のような毛を揺らつかせ、猫のような身体のしなりを見せている。
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
ホームにこびりついた鳩の糞が、白い塗料のように見える。
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
まるで風景に貼り付いたシールのように、こちらを見ながら動きを止めている。
中村文則 / 教団X amazon
姿勢は良く、茶道の最中のような様子だった。
伊坂 幸太郎 / 砂漠 amazon
軽快に床を跳ねる男たちのフットワークに合わせ、建物自体が揺れるかのようだ。
伊坂 幸太郎 / 砂漠 amazon
西嶋はレーンと向かい合い、ボールを構えたまま、動かなかった。狙いを定めているのか、コースをイメージしているのか、黙って、「ボウリングを発明した人の彫像」さながらにボールを構えた恰好で固まったままだった。
伊坂 幸太郎 / 砂漠 amazon
「バーゲンの時って店がもう一杯でしょ。だから、彼女が服を選んでいる間、少し離れたところで彼氏たちが待ってるの。そのね、途方に暮れたような、飼い主を待つ犬のような姿がね、もう可哀想で可哀想で」
伊坂 幸太郎 / 砂漠 amazon
四月、働きはじめた僕たちは、「社会」と呼ばれる砂漠の厳しい環境に、予想以上の苦労を強いられる。砂漠はからからに乾いていて、愚痴や嫌味、諦観や嘆息でまみれ、僕たちはそこで毎日必死にもがき、乗り切り、そして、そのうちその場所にも馴染んでいくに違いない。
伊坂 幸太郎 / 砂漠 amazon
少しすると、ゆっくりと小さな雪崩を起こすかのように倒れてくる。
伊坂 幸太郎 / マリアビートル amazon
よろめく脚を軸として、独楽(こま)のように廻った。
梅崎 春生 / 桜島 amazon
噴水のような哄笑の衝動
開高 健 / 裸の王様 amazon
腐熟した柿の自然に落ちるのを待つように武田軍の内部崩壊の進行を気長に待ちつづけた。
司馬 遼太郎 / 国盗り物語〈1〉斎藤道三〈前編〉 amazon
蠅のように身がるくそれを避けて飛び去り
和田伝 / 沃土「和田伝全集 第2巻」に収録 amazon
日光の下に種々の植物が華さくように、同時に幾つかの為事をはじめて、かわるがわる気の向いたのに手を着ける習慣になっているので、幾つかの作品がおくれたり先だったりして、この人の手の下に自然のように生長していくのである。
森 鴎外 / 花子 amazon
涙が搾るように頬を伝って来ました。
井上 靖 / 猟銃「猟銃・闘牛 (1974年) (井上靖小説全集〈1〉)」に収録 amazon
まるで飢えた人が食い物をあさるように茶道具をあさった。
司馬 遼太郎 / 国盗り物語〈1〉斎藤道三〈前編〉 amazon
ばねのように膝をのばして跳び上った。
安部 公房 / 他人の顔 amazon
老人は置物のようになお皆の方へ背を向けたままでいた。
志賀 直哉 / 暗夜行路 amazon
張り切った綱が切れたように、突如として笑い出した。
横光 利一 / ナポレオンと田虫 amazon
身体が突然後へ反って、仰向けにどうと倒れたなり動かなくなった。あたかもはりきっていた旋条(ぜんまい)がピーンとはじきかえったような工合(ぐあい)である。
中山 義秀 / 碑「厚物咲・碑―他六篇 (1956年) (角川文庫)」に収録 amazon
滾(こぼ)るように馬から下り
幸田 露伴 / 連環記 amazon
くるくると羽衣一まいを纏(まと)って舞っているように身軽く立ち働き
太宰 治 / ヴィヨンの妻 amazon
岩にうちつけられて死に果てる魚のように、ぴりぴりと瞼を痙攣させる。
岡本 かの子 / 落城後の女「岡本かの子全集 (第3巻)」に収録 amazon
心臓は波のような動悸をうち
坂口 安吾 / 白痴 amazon
大森海岸あたりの、古下駄とか猫の死骸とかゴム製品とか、そんなような汚いものを一面に浮べた真黒な波が退くような感じで、二階の一団は稽古をすませて去って行った。
高見 順 / 如何なる星の下に amazon
花のようにパッと咲いてはいずれも花のように散ってどこかへいなくなってしまった実にたくさんのレヴィウの踊り子たち
高見 順 / 如何なる星の下に amazon
コーヒー豆が笹の葉を撫でる風のような音をたてて、細かく挽かれてゆく
椎名 桜子 / 家族輪舞曲(ロンド) amazon
風に吹かれるベコ人形が首を振るように、首を左から右に振った。
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
糸が切れたように女が笑い出した。
三島 由紀夫 / 金閣寺 amazon
鉄砲だまのようにとび出したきりで
丹羽 文雄 / 顔 amazon
自分の顔にべたりと貼り付けるみたいに当て、それこそ面の皮でも剥ぐような乱暴さで、ずるずると顔を撫でおろした。
高見 順 / 如何なる星の下に amazon
すうッと消えるように出て行った。
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
南瓜(かぼちゃ)を踏み潰した様な貧弱な恰好の靴
内田 百けん / 特別阿房列車「第一阿房列車 (新潮文庫)」に収録 amazon
げっそりと血の気のない顔に、とつぜん二本の涙の筋が太々と描かれ、まるでにわか雨であふれ出した小川のように涙はあとからあとから光り流れた
伊藤 永之介 / 鶯 (1956年) amazon
海老のように身を縮めて
堀田 善衛 / 鬼無鬼島 amazon
草の上にたおれて、虫のように身をよじらせた。
林 房雄 / 青年 (1964年) amazon
ぎくとして、筋を引いた蛙の肢のように立ち上った。
池谷 信三郎 / 橋 amazon
病人は急に私の肩の上でがっくりと落ちついた金庫みたいになって
横光 利一 / 時間 amazon
フッ! と木魚をたたくような飾りけのない笑いが二つ三つボクボクと湧いた。
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
水からあがる時の河馬(かば)のような自らの体重を感じながら、しかたなく立ちあがる。
筒井 康隆 / 夢の木坂分岐点 amazon
転がるように笑い出した
永井 荷風 / おかめ笹 amazon
彼女はまるでヒタイを畳に吸いとられたように長ながとお辞儀した。
安岡 章太郎 / 青葉しげれる amazon
ぴたりと、まるで闇の一部になってしまったように静止していた。
吉本ばなな / 哀しい予感 amazon
涙は、ポンプからふきだす水のようないきおいであった。
庄野 英二 / 星の牧場 amazon
ある湿った暖かい夜、春風に吹き送られたようにフラリとお半さんが訪れて来た
堤千代 / 全機還りなば
屍骸のようにだらりと畳の上にのびた瓢吉の手
尾崎 士郎 / 人生劇場 青春篇 amazon
子供たちがダユのようにへばりついている。
安部 公房 / 他人の顔 amazon
女の顔は、噴水のように吹き上げる涙でたちまちびっしょりと濡れてしまった。
伊藤 永之介 / 鶯 (1956年) amazon
礼の仕方の巧みなのに驚いた。腰から上が、風に乗る紙のようにふわりと前に落ちた。
夏目 漱石 / 三四郎 amazon
百円札が中井の指に、山羊(やぎ)の口に挟みこまれるようにモグモグと握り取られた。
武田 泰淳 / 風媒花 amazon
記事を片隅からガリガリ物を噛むような調子で読み出した。
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
長いこと乳のように吸った。
林 芙美子 / 風琴と魚の町 amazon
影法師のように離そうとしても自分から離れない
円地 文子 / 女坂 amazon
なぜ死期の近い病人の体を蝨(しらみ)が離れるように、あの女は離れないのだろう。
森 鴎外 / 百物語 amazon
小鳥でも絞め殺すように、私は危うくその封筒を握りつぶすところだった。
三島 由紀夫 / 仮面の告白 amazon
ちょうど水の中を浮遊するように巨きい頭を突き出したままゆらゆら歩きはじめ
檀一雄 / 花筐「花筐・光る道 他四編」に収録 amazon
子供たちは豆のように弾けて笑った。
林 芙美子 / 風琴と魚の町 amazon
壁に蝙蝠のようにペタリと倚(よ)り添った女
行路難(正木不如丘)「大衆文学大系〈10〉田中貢太郎,正木不如丘 (1972年)」に収録 amazon
毎日土間のタタキを鏡のように洗わせなければ承知しない
野上 弥生子 / 茶料理「野上弥生子短篇集 (岩波文庫)」に収録 amazon
すっかり固くなり、兵隊のように、「はあ、はあ」と返事しているだけであった。
伊藤 整 / 氾濫 amazon
両手を羽摶(はばた)くように振った。
安岡 章太郎 / 海辺の光景 amazon
彼女はよく笑った。それは、彼に、洗ったばかりの葡萄の房の綺麗な粒がいくつも転って行くような印象を与えた。
清岡 卓行 / アカシヤの大連 amazon
子供達が金色のように寄って来た
林 芙美子 / 耳輪のついた馬「風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)」に収録 amazon
朝靄(あさもや)の中へ溶けこむように街道を去って行った。
池波 正太郎 / 剣客商売 amazon
箸がころげたのを見たように明るく笑いながら
有吉 佐和子 / 恍惚の人 amazon
虱(しらみ)のようにへばりついてる
中 勘助 / 銀の匙 amazon
あっちへよろけこっちへよろけして奴凧のようにふらつく
伊藤 整 / 馬喰の果て (1954年) amazon
蝗(いなご)のように部屋にとびこんでまいりました。
北 杜夫 / 硫黄泉「牧神の午後 (中公文庫 A 4-9)」に収録 amazon
蝶々のように躍る女の子
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
巣に隠れる鳥のように、
島崎 藤村 / 新生 amazon
飛ぶように階段を下りていった。
尾崎 士郎 / 人生劇場 青春篇 amazon
ピンで背中を突き通されている昆虫みたいで、身体がもう自分の身体じゃなくなっている
横光 利一 / 由良之助「定本横光利一全集 (第10巻)」に収録 amazon
ゴシゴシ額の汗を削るように拭きとる
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
船乗りがタラップを下りるときのような恰好で敏捷に階段を下りていった。
堀田 善衛 / 広場の孤独 amazon
平床を鏡のようにふき込んで
夏目 漱石 / 道草 amazon
彼女は春の芝生のように明るく笑い
池谷 信三郎 / 橋 amazon
舞のように科(しぐさ)が美しいのだ。
有吉 佐和子 / 華岡青洲の妻 amazon
雨のしずくかと、菊治がまた思ったほど、涙は続いて落ちた。
川端 康成 / 千羽鶴 amazon
風呂敷包みをまるでアンパンか何かのように子供らしく背後に隠して
林 芙美子 / 魚の序文「風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)」に収録 amazon
診断書を、子供が千代紙(ちよがみ)でも扱うように細かく丹念に折り畳んで
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
杭のように動かなかった。
野上 彌生子 / 哀しき少年「野上彌生子全小説 〈8〉 哀しき少年 明月」に収録 amazon
衣服(きもの)を脱いで全身を練り絹のようにあらわして
泉 鏡花 / 高野聖 amazon
綱でもひきよせているように、両手をかわるがわる動かし、
壺井 栄 / 二十四の瞳 amazon
帯の解かれるちょうど蛇の威嚇のような鋭い音と、やわらかな着物の崩れ落ちる音が近くでした。
三島 由紀夫 / 午後の曳航 amazon
断水した蛇口から空気がもれるみたいな、人を狼狽させる泣きかた
安部 公房 / 他人の顔 amazon
拍手の音がまるで大きな油鍋の中に水でも零したようにぱちぱちと起った。
小杉 天外 / 初すがた amazon
臓腑(ぞうふ)が抜けたようになって、足もとがふらふらした。
宇野 千代 / 未練「宇野千代全集 第4巻」に収録 amazon
万力のような抱擁だった。メキメキと骨が鳴った。
藤沢 周平 / 三ノ丸広場下城どき「麦屋町昼下がり (文春文庫)」に収録 amazon
大粒の涙が留め度もなく雨のようにポロポロ落ちた。
嘉村 礒多 / 業苦 amazon
死んだふりをしている虫みたいに身じろぎ一つできなくなって
安部 公房 / 他人の顔 amazon
火に身を灼く虫のように、理想を追うてそんな危険をさえあえてしようとした
大原 富枝 / 婉という女 amazon
猫が飼主に粘りついているように、栗栖の周囲(まわり)を去らなかった。
徳田 秋声 / 縮図 amazon
むささびのように樹にへばり附いていた。
野上 彌生子 / 野上弥生子「哀しき少年 (ジュニア版日本文学名作選 38)」に収録 amazon
魚の跳ねるように出て行く久子
石川淳 / 普賢 amazon
屋上から飛び下りて蛙のようにペシャンコになって死んだ。
村上 春樹 / 風の歌を聴け amazon
空腹者のようにがつがつと、詩や小説を読み出した。
堀 辰雄 / 麦藁帽子 amazon
固い頬の肉で蒟蒻(こんにゃく)のように笑った。
和田伝 / 沃土「和田伝全集 第2巻」に収録 amazon
ばばあを椅子のうえに押しあげようとしました。まるで象を椅子に乗せるような苦労でした。
倉橋 由美子 / 蠍たち amazon
ふ、ふと湯玉が上ってくるように笑いの玉がこみ上げて来て、大きな声で笑っていた。
向田 邦子 / はめ殺し窓「思い出トランプ (新潮文庫)」に収録 amazon
神経も思索もぬかれてしまった機械のように、ただ動いている。
林 房雄 / 青年 (1964年) amazon
葡萄糖を両手にかかえてネズミのように齧(かじ)っている。
遠藤 周作 / 海と毒薬 amazon
両の手は何かを掴もうとして、十本の指が、蟬のように動いている。
林 芙美子 / 浮雲 amazon
胎児のように身をちぢめなければならぬ
林 房雄 / 青年 (1964年) amazon
ばたりと投げ込まれたように彼の部屋へ入って来た。
川端康成 / 雪国 amazon
私は仔犬のようにまろくなって座敷の隅にちぢかまっていた。
森田 たま / もめん随筆 amazon
夜明けの寒気が彼の全身を感覚のない石のようにかたまらせていた。
坂口 安吾 / 白痴 amazon
若い女の自然な笑いではない。死にかけた鳥が叫んでいるみたいだ。
日野 啓三 / 夢の島 amazon
潮の満干のように、時々待合室の出入りが、激しくなる。
林 芙美子 / めし amazon
ふといしり尾をたてながら、座をたちあがると、ころものすそが、それにかかって、せんすのようにひろがりました。
浜田 廣介 / 浜田広介童話集 amazon
布の落ちるように音もなくまたも畳にくず折れる
石川淳 / 普賢 amazon
風に飛ぶ草の実のように、
徳田 秋声 / 縮図 amazon
下宿のように入りびたって
阿川 弘之 / 雲の墓標 amazon
旋風(つむじかぜ)のように身をかえして去る
森 鴎外 / ヰタ・セクスアリス amazon
育ちざかりの七面鳥のように眼をむいてがつがつ食いまくる
和田伝 / 沃土「和田伝全集 第2巻」に収録 amazon
一人が買えば、あとはダボハゼを釣るように、あとからあとから食いついてくる。
高峰 秀子:松山 善三 / 旅は道づれガンダーラ amazon
脱ぎすてられたそれらのものは、誉れの墓地のような印象を与えた。
三島 由紀夫 / 金閣寺 amazon
こくりこくりと居眠りでもしている人のように、ゆるゆるした手つきで団子をこねていた
宇野 浩二 / 子を貸し屋 amazon
石垣もくずれるように笑い
室生 犀星 / 杏っ子 amazon
咳のような笑い方で笑った。
平林 たい子 / 桜「平林たい子全集 2」に収録 amazon
追っかけられた猫のように、おもてへ飛んで行った。
葉山 嘉樹 / 海に生くる人々 amazon
彼女の袂を挘(むし)るように掴むと
和田伝 / 沃土「和田伝全集 第2巻」に収録 amazon
ふいと折れ崩れるように縋(すが)って来て
川端康成 / 雪国 amazon
蚕が桑の葉を噛むのに等しい単調な咀嚼
三島 由紀夫 / 金閣寺 amazon
踊り手が、まるで大きな蛾(が)が狂うように、どこからかそこへ現われていた。
芥川龍之介 / 舞踏会 amazon
ふいっとラムネの玉が咽喉(のど)につかえたように、そして身体中がかたくこわばって
吉屋 信子 / 妻も恋す「女の暦・妻も恋す (1951年) (傑作長編小説全集〈第6〉)」に収録 amazon
噛みくだかれたものが食道を通過するしるしに、とがった喉仏が@略@ぴくりと動く。まるでそれは機械が物を処理して行く正確さと、ある種の家畜が自己の職務を遂行している忠実さとを見るようだ。
安岡 章太郎 / 海辺の光景 amazon
泥でこねたようにじっとしていた
有吉 佐和子 / 恍惚の人 amazon
パレットナイフで牡蠣のように固くなった絵の具をバリバリとパレットの上で引掻きながら
林 芙美子 / 清貧の書 amazon
万年筆がかれの指に握りしめられて性器のように汗ばんでくる。
大江 健三郎 / われらの時代 amazon
夜の川のように、香菜江はそこに、じっとしていた。
永井竜男 / 風ふたたび「永井龍男全集 5 長篇小説 1」に収録 amazon
台所からは蠅のように女達が出て来た。
林 芙美子 / 耳輪のついた馬「風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)」に収録 amazon
Y先生の重量を支えて、籐の丸椅子が、うめくようにギイギイと声を上げた。
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
何の変りもなく機械のように働いていた。
相馬 泰三 / 六月 amazon
寒さは地に凝りついたように離れなかった。
長塚 節 / 土 amazon
弁当を背中にくくりつけ、小学生の遠足のように出かけた。
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
棒杭(ぼうぐい)の如く佇む。
筒井 康隆 / 夢の木坂分岐点 amazon
けもののように素っ裸にされて
壺井 栄 / 二十四の瞳 amazon
後姿が暗い山の底に吸われて行くようだった。
川端康成 / 雪国 amazon
手桶の水を馬のように飲んで
林 房雄 / 青年 (1964年) amazon
動悸が激しく鳴る。かくれんぼをする時の子供のような胸さわぎだ。
林 芙美子 / うず潮 (1964年) amazon
まるで、上体だけを自分の手でほうりなげるようにして
野間 宏 / 真空地帯 amazon
すばやい突風のように部屋にかけこみ
大江 健三郎 / われらの時代 amazon
滑らかに、形のいい上半身が現れたのが、するりと、バナナの皮を剥き取ったような感じで
大仏 次郎 / 帰郷 amazon
眼に湯のような涙が溢れて来た。
宇野 千代 / 色ざんげ amazon
餅を呑み込むように大きく頷いた。
獅子 文六 / てんやわんや amazon
ぺたりと畳に平蜘蛛のようにお辞儀をした
今 東光 / 夜の客「日本文学全集〈第59〉今東光・今日出海集 (1969年)お吟さま 痩せた花嫁 鶏頭 夜の客 他 山中放浪 天皇の帽子 他」に収録 amazon
やたらにそこらを鉄砲を打つように撮してしまうと、フイルムを抜いた。
大岡 昇平 / 武蔵野夫人 amazon
ほんの小さな、毛のような細い細い白銀色の針。
井伏 鱒二 / 遥拝隊長・本日休診 amazon
凍りついた棒のように立っていた。
葉山 嘉樹 / 海に生くる人々 amazon
茶筅(ちゃせん)をつかうように箸(はし)で忙しく飯を口中に掻き込む
井伏 鱒二 / 多甚古村 amazon
流しすぎた涙のために、力を失って、死んだ鶏のようになっていた。
三島 由紀夫 / 美徳のよろめき amazon
受取った傘の滑らかな柄が生物のような体温を秘めている。
黒井 千次 / 群棲 amazon
からだを猫ののびをするように伸ばして、立ち上った。
室生 犀星 / 杏っ子 amazon
歯を剥き出して狂犬病の犬の如く笑う
島田 雅彦 / 聖アカヒト伝「ドンナ・アンナ (新潮文庫)」に収録 amazon
ぽろッぽろッと玉のような涙が唐筵(とうむしろ)の上に音をたてて落ちた。
加能 作次郎 / 世の中へ amazon
紙にぱっと花が咲くように書け
石川淳 / 普賢 amazon
母親は撫でるように静かに笑った。
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
香(かぐわ)しい涙の果実
永井 荷風 / ぼく東綺譚 amazon
津波のように皆がどっと笑い出した。
林 芙美子 / 泣虫小僧 amazon
腰のあたりへ蟹のような宙ぶらりんな恰好でしがみついた。
伊藤 整 / 馬喰の果て (1954年) amazon
身を投げるように、その場に坐る
大岡 昇平 / 花影 amazon
半リットルを、吸い上げポンプのように、一気に飲みほしてしまう。
安部 公房 / 他人の顔 amazon
石像のように往来に佇んで
岩田 豊雄 / 沙羅乙女「獅子文六作品集〈第4巻〉沙羅乙女・信子 (1958年)」に収録 amazon
釣している人の影は造った像のように動かずじっとしている。
永井 荷風 / ふらんす物語 amazon
窓に体を投げつけるように腰かけた。
川端康成 / 雪国 amazon
この際の訪問者はまるで助け舟のように嬉しく
林 房雄 / 青年 (1964年) amazon
両方の眼にいっぱい溜った涙が、ちょうど窓の硝子を辷(すべ)り落ちた雨のように、紫っぽく腫れた顔を筋になって流れた。
野上 彌生子 / 哀しき少年 amazon
急に火がついたように笑い出す
川端 康成 / 雪国 amazon
そこはかとない暗(やみ)にのまれてゆくような手ごたえのない笑い
円地 文子 / 女坂 amazon
怺(こら)えきれなくなって機関銃みたいに笑ってしまったわ。
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
礫(つぶて)のように飛び込んで来た
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
命令を耳にすると同時に、陽気なイナゴのようにとびたって
林 房雄 / 青年〈上〉 (1951年) amazon
釘抜きで釘を挟んだように腕をつかんだまま
森 鴎外 / 護持院原の敵討 amazon
その瞬間、天井から糸で釣り上げられたように、ふわりと草子は立上った。
吉行 淳之介 / 闇のなかの祝祭 amazon
突然瞼を焼くような熱い涙が、私の眼から流れ出た。
梅崎春生 / 桜島 amazon
ぽかっと、古沼に浮きあがった水泡のように、思いがけなく塚原義夫が立ち上った。
本庄 陸男 / 白い壁 amazon
百合枝はロビイの椅子に腰かけて夕バコを吸い、ラクダのように動かなかった。
大庭みな子 / 啼く鳥の amazon
吼(ほ)えるように泣きわめく子供の声
石川 達三 / 蒼氓 amazon
肛門に差し込む百目ろうそくのような灌腸器
平林 たい子 / 施療室にて「こういう女・施療室にて (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
人は、完全のたのもしさに接すると、まず、だらしなくげらげら笑うものらしい。全身のネジが、他愛なくゆるんで、これはおかしな言いかたであるが、帯紐(おびひも)といて笑うといったような感じである。
太宰 治 / 富嶽百景 amazon
バルコオン(=バルコニー)の梯子は白い背骨のように突き出ていた。
横光 利一 / 花園の思想 amazon
水から上った鳥のように身震いして
林 芙美子 / 風琴と魚の町 amazon
塩をまかれたナメクジのように萎縮するばかりであった。
石坂 洋次郎 / 山のかなたに amazon
不自然な姿勢を動かすこともできず、背中は氷の板のように冷たく硬ばっていた。
山本 周五郎 / 青べか物語 amazon
姿勢を崩さずに、まるで化石になったように突っ立っている。
椎名 麟三 / 永遠なる序章 amazon
体を鰕(えび)のように曲げて
森 鴎外 / ヰタ・セクスアリス amazon
猿のように格子に手をかけて登りついた。
坪田 譲治 / 風の中の子供 amazon
疲労から、やどかりのようにとじこもって殼のなかでぐったりしてヘンリー・ミラアを読んでいた。
大江 健三郎 / われらの時代 amazon
大い縄でぐっと吊るされたかと思うように後へ反りかえって
長塚 節 / 土 amazon
この変な親娘は、友達のように笑い合った。
室生 犀星 / 杏っ子 amazon
押入れに順序も見境いもなく、ゴミ溜めにゴミ屑を入れるように一切合財がほうり込まれる
安岡 章太郎 / 海辺の光景 amazon
馬の尻尾のように跳ね上り
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
昆虫の腹のようにぴくぴく痙攣させはじめる。
安部 公房 / 他人の顔 amazon
刀剣をとり出すと、子供に飴玉でも与えるように逸見の手にわたした。
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
作りつけの人形のようにじっとすわり込んでいた。
夏目 漱石 / 明暗 amazon
弱々しく、風に吹かれて花が花冠を垂れるように、頷いた。
福永 武彦 / 草の花 amazon
男はコートのポケットに手を突っ込んだまま、マネキン人形のように身動き一つせず、立っていた。
赤川 次郎 / 三毛猫ホームズの推理 (角川文庫 amazon
墓石のように動かない。
三島 由紀夫 / 金閣寺 amazon
虫のようにしくしく、長いこと泣いていましたよ。
梅崎 春生 / 桜島 amazon
タア子を、火薬が導火線を逃げるように@略@室の外に出し、障子をピシャンと閉める
伊藤 整 / 火の鳥 (1958年) amazon
これでは翼をもがれた鳥も同然である。
安部 公房 / 他人の顔 amazon
男の子を瘤のように背中にのせ
石坂 洋次郎 / わが日わが夢 amazon
びしょ濡れの犬みたいに、激しく身震いをして
安部 公房 / 他人の顔 amazon
まるで馬のように音をたててたべた。
林 芙美子 / 泣虫小僧 amazon
だれかのお喋りに相槌を打つように首を動かしたりしていた。それは、電気仕掛けの人形のように見えた。
富岡 多恵子 / 富士山の見える家「当世凡人伝 (1977年)」に収録 amazon
滅茶苦茶に手足をゆらめかしたが、まるで海月(くらげ)、漂っていると言った方が当っている
北 杜夫 / 牧神の午後・少年 (1977年) amazon
胃の腑へ届く食物は、そのまま直ちに消化されて、血管を少女のような元気さと華やかさとで駆け廻るように感じられた。
葉山 嘉樹 / 海に生くる人々 amazon
折り曲げたナイフのような姿勢でそっと(プールに)飛び込み
庄野 潤三 / プールサイド小景・静物 amazon
一途にひたすらに泣きわめく。驟雨でも来たようで、一種の壮観を呈する。
石坂 洋次郎 / 暁の合唱 amazon
あたたかい涙が湧湯(わきゆ)のようにあふれて流れた。
深田 久弥 / あすなろう「あすならう・オロツコの娘 (1954年) (現代日本名作選)」に収録 amazon
インクは勃起した性器の静脈のようなおとなしいブルー色をしている。
大江 健三郎 / われらの時代(新潮文庫) amazon
雀たちが、ころころ地べたを転がるように飛んでいる。
林 芙美子 / 魚の序文「林芙美子 [ちくま日本文学020]」に収録 amazon
おさえていた感情が堰を切ってあふれるように泣きだした
尾崎 士郎 / 人生劇場 青春篇 amazon
「ハ、ハ、ハ、ハ」逸見が枯木でも折るような調子で笑って
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
ひろい道場を燕のごとく縦横に飛びまわり
池波 正太郎 / 剣客商売 amazon
帯のような鉄梯子(てつはしご)
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
少年は素裸にされて、手足を押さえつけられ、小人の国のガリバーになった。
島田 雅彦 / 聖アカヒト伝「ドンナ・アンナ (新潮文庫)」に収録 amazon
更紗の風呂敷に包んで、あたかも鳥籠でもぶら下げているような具合
夏目 漱石 / 明暗 amazon
汽罐車が蒸気を捨てる時のようなかすれた口笛
平林 たい子 / 施療室にて「こういう女・施療室にて (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
養蚕前の大掃除のように家(や)さがしをして
和田伝 / 沃土「和田伝全集 第2巻」に収録 amazon
その姿は煙のように消えてしまった。
豊島与志雄 / 理想の女 amazon
動物園のはっぴをきた男が、両手をアフリカゾウの耳のようにひろげて、さけんでいる
小出 正吾 / ジンタの音「小出正吾児童文学全集 (3)」に収録 amazon
蝶々のように飛びあがり飛びくだるお手玉
中 勘助 / 銀の匙 amazon
君は、ともすると古木の皮のように固まってしまおうとする私を真向から叩き壊し
鈴木 藤太郎 / 子供記 amazon
こくこくと搾りたての牛乳を飲むように読んでいった。
森田 たま / もめん随筆 amazon
材木のようにどさりと倒れて
藤沢 周平 / 麦屋町昼下がり amazon
火のついたように身を慄(ふる)わして泣いて
長塚 節 / 土 amazon
湧き立つような拍手をうけて
尾崎 士郎 / 人生劇場 青春篇 amazon
旦那は味噌汁からちょいちょいと鳥がをついばむように具だけを抜き取っている。何度やめてほしいと頼んでも、医者に塩分をひかえるように注意されたと言って、こうして毎日むしろ堂々と汁を残すのだ。
本谷 有希子 / 異類婚姻譚 amazon
腕時計を大切そうに撫でた。何度も撫でれば、よく輝くと信じているかのようだった。
伊坂 幸太郎 / オーデュボンの祈り amazon
彼女たちは去っていった。規模は小さいが、れっきとした竜巻のようだった。
伊坂 幸太郎 / オーデュボンの祈り amazon
鬼のような形相をして城山は痙攣をしている。彼を楽に死なせるものかと、見えない誰かが背を擦っているようにも見えた。
伊坂 幸太郎 / オーデュボンの祈り amazon
昔身に着けていた礼儀作法を今ではどれほど無価値だと思っているかが、見えてきたんですよ。@略@まだコースがすべて運ばれていないのに席を立ってトイレへ行ってしまう、そのおばあさんの後ろ姿に、私は崩れかけた神殿の跡を見たんです。
綿矢 りさ / 仲良くしようか「勝手にふるえてろ (文春文庫)」に収録 amazon
空中で書いた私の文字は書き終わりがゆがんで伸び、ダイイングメッセージに似ていた。
綿矢 りさ / 仲良くしようか「勝手にふるえてろ (文春文庫)」に収録 amazon
見えない風船に顔面を押されたように、真田の上体がのけぞり
池井戸 潤「民王 (文春文庫)」に収録 amazon
罵声を浴びせた記者を排除しようとSPが腕を摑んだが、最前線のひとりが倒れても、サメの歯のように背後から記者が詰めるだけのことで、そんなものは焼け石に水なのであった。
池井戸 潤「民王 (文春文庫)」に収録 amazon
ハエでも追い払うように顔の前で手をひらひらさせる。
池井戸 潤「民王 (文春文庫)」に収録 amazon
ラウンド間の休憩を終えたボクサーのように、局員たちは勢いよく立ち上がって
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
バネ仕掛けの人形のように上半身を起こした
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
米つきバッタみてえに床に額こすりつけ
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
学芸会のようなお辞儀
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
ヒキタテンコーみたいに姿を消しちまう
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
川島を見捨てていた。這い上がる意思のない人間に何本ロープを垂らしてやろうが無駄なのだ。意思ある人間はロープなどなくても必ず這い上がってくる。
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
櫛の歯が抜けるように記者が辞めていった
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
美咲の薄い身体は、如月の腕の中にすっぽりと納まり、そのまま溶けて消えてしまいそうに思えた。
あさの あつこ「ガールズ・ブルー (文春文庫)」に収録 amazon
素早い動きだった。花火のように、あっという間にいなくなった。
あさの あつこ「ガールズ・ブルー (文春文庫)」に収録 amazon
けけけと美咲は、山姥みたいな笑い方をした。
あさの あつこ「ガールズ・ブルー (文春文庫)」に収録 amazon
くすくす笑いじゃなくて、胸の辺りから笑いの漣がこみ上げてくる感覚
あさの あつこ「ガールズ・ブルー〈2〉 (文春文庫)」に収録 amazon
唐突に噴き出した。硬い口の線や顎の輪郭が崩れて、くっくっと小刻みに揺れる。美咲の笑顔は美しい。普段のむっつりとした表情の崩れるさまが美しいのだ。 硬い殻を割ったら中から思いがけなく美しい珠が出てきた。そんな感じ。
あさの あつこ「ガールズ・ブルー〈2〉 (文春文庫)」に収録 amazon
カウンターに載せた手の細い指をたき火にでもあたるような具合にひっくり返しながら
村上春樹「風の歌を聴け (講談社文庫)」に収録 amazon
流し台で馬のように水を何杯か続けざまに飲んで
村上春樹「風の歌を聴け (講談社文庫)」に収録 amazon
レコード棚まで大股で歩き、よく訓練された犬のようにレコードを抱えて帰ってきた。
村上春樹「風の歌を聴け (講談社文庫)」に収録 amazon
病人のかさぶたのように貝殻がびっしりとこびりついている。
村上春樹「風の歌を聴け (講談社文庫)」に収録 amazon
考えるに付け加えることは何もない、というのが我々の如きランクにおける翻訳の優れた点である。左手に硬貨を持つ、パタンと右手にそれを重ねる、左手をどける、右手に硬貨が残る、それだけのことだ。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
仔犬でも抱えるようにヘルメットを手にして
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
時折道ですれちがうことはあったが、口をきいたことはない。まるで奥深いジャングルの小径を白象にまたがって進むような顔つきで彼女は歩いていた。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
ひどく犬の多い土地で、彼らはまるで水族館の鰤の群れのように雨の中をあてもなく歩きまわっていた。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
まるではしけに打ち寄せる波のようにやって来ては去っていった。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
それは象の墓場のようにも見えた。そして足を折り曲げた象の白骨のかわりには、見渡す限りのピンボール台がコンクリートの床にずらりと並んでいた。@略@台は同じ向きに八列の縦隊を組み、倉庫のつきあたりの壁まで並んでいた。まるでチョークで床に線を引いて並べでもしたように、その列には一センチの狂いもない。アクリル樹脂の中で固められた蠅のようにあたりの全ては静止していた。何ひとつぴくりとも動かない。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
ゆっくりなめらかに掃除機の柄をスライドさせて、隅を掃除するときは壁にぶつけたりしないで、ぴったり角に掃除機の頭の角をはめて、掃除機が細かい音をたてながらごみを吸い込んでいくのを楽しむみたいにゆっくり動かして、一回で吸い込みつくす。あれって素敵。掃除機ってうるさいし、うまくついてこないし、椅子に引っかかったりすると、ホースを引っ張って力技で近くに寄せちゃったりするものなのに、あなたはよく訓練した犬みたいに掃除機をついてこさせて、とても静かに掃除するから、官能的な趣きさえあるよ
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
私は絃のあぐらをかいた脚のなかにうしろむきで腰を下ろして、絃が手と足で作り出す空間にしっかりと収まる。絃の腕がうしろからまわってきて肩を抱くと、抱きしめられているというより、暖かい木枠のなかに収まった、という感じがする。ここが私の居場所。もし絃の心が冷めきっていたとしても、彼の身体はいつも温かい。
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
道でしゃがんで寝ている知らない猫をなでる子どもの手のように、こちらの様子を見ながらこわごわ、不器用になでる
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
世界が空と太陽と海と僕だけになったところで行き倒れたみたいに寝転ぶと身体は少しだけ浮き、耳は海にある洞窟みたいに波のリズムに合わせて穴の水位が上がったり下がったりした。力を完全に抜くと踵だけが海底につく。浜近くの底と土の質が違って砂ではなく、やわらかくあたたかい泥だ。波に圧されるたびに踵が泥の海底を掘り、碇を下ろしたみたいに僕は同じ場所に停まり続ける。
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
私の愛情は利己的だよね。注げば注ぐほど、うっとうしいだろう。内面だけではなく顔もこわくなってきてる。@略@あなたにしがみついている間に色んなものが私にぶつかってきて私の容貌を変えた。そして、あなたは泣き虫なゾンビに強い力で足首を摑まれたまま、足を引きずりながら歩いている。しがみつき続けるだけでもけっこう大変だから、しがみつくことが正しいかどうかなんていう根本的な問題を、考えてみるだけの余裕が今まで無かった。
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
むしゃむしゃ馬みたいに食べたい
小川 洋子「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
買い物かごを提げた人たちが、何人も何人もわたしたちの周りを歩いていた。みんな水の中を漂うようにゆらゆらと、食べ物を捜し歩いていた。
小川 洋子「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
唇は鍛え抜かれた陸上選手の太もものように、たくましく動く。
小川 洋子「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
一歩一歩足をのせるたびに、木の階段はつぶやくようにみしみし軋んだ。
小川 洋子「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
両手で湯呑みをつかみ、祈るようにゆっくりと飲みほした。
小川 洋子 / ドミトリイ「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
彼は、明るい光の中をはるかな遠い一点に吸い込まれていった。彼の背中が消える時、わたしは息苦しいほどに心細くなり、まばたきもせずにずっと遠くを見続けていた。しかし、その一点は雪の粒のようにもろく溶けてしまった。
小川 洋子 / ドミトリイ「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
登った木から降りられなくなった猫みたいに、どこへも行けず
中島 京子「小さいおうち (文春文庫)」に収録 amazon
わっとやってきて、わっと去っていく。イナゴの大群のようなものか
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
雛鳥のように待ってる
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
驚いて、ゼンマイ仕掛けの人形みたいに立ち上がる
森田たま / 菜園随筆 amazon
つゆ子の体を抱いた。細い胴体の柔らかさは赤ん坊を抱いた時のように頼りなく哀れである。
宇野千代 / 色ざんげ amazon
手を突いて立上がろうとすると、膝が金具のようにがくがく鳴って
平林たい子 / 施療室にて amazon
どさりとバックを床に落とし、運動選手が息を整えるような姿勢で腰を折る
松村栄子 / 至高聖所 amazon
野放図に明るい、北海道の夏の空のような笑い
内田康夫 / 釧路湿原殺人事件 amazon
もし水泳競技にターンがなく、距離表示もなかったとしたら、400メートルを全力で泳ぎきるという作業は救いのない暗黒の地獄であるに違いない
村上春樹 / 回転木馬のデッド・ヒート(プールサイド) amazon
その他の人物を表す比喩表現
比喩表現のカテゴリ